(1) コヒーレント分子振動励起による分子間熱反応の誘起手法開発 昨年度、可視5フェムト秒パルスレーザー光照射により、電子基底状態において複数のラマン活性な分子振動をコヒーレントに励起すると、溶液相から気相への相転移を誘起できることをみいだした。本年度は、レーザー光強度・溶液濃度などの影響を検討した。その結果、レーザー光強度が0.2 ~ 30 mJ/cm2の範囲においては、光強度に依存せずに相転移が進行した。また、溶液濃度にも依存せず、溶質の相転移を誘起可能なことが示された(論文投稿中)。 (2)分子間熱付加反応の遷移状態分光 分子間反応の遷移状態分光においては、分子内反応とは異なり信号強度が低いことが問題である。昨年度に引き続き信号雑音比の向上を目指し、装置を改良した。本年度は主にポンプ光とプローブ光の光軸安定化を目指した。試料位置でのポンプ光とプローブ光の重なりを撮像する光学系などを作成・導入した。様々な安定化装置を導入・制御した結果、概ね4割程度ノイズレベルが低減した。また、数日間にわたる長期安定性が向上した。 本研究では、会合体を利用して分子間反応の遷移状態分光を試みている。分子間光反応に関しては、会合体の濃度が低くても、会合体のみを励起可能なスペクトルに整形し、会合体のみを選択的に励起すれば、分子間反応に伴う分子構造変化を分子振動の瞬時瞬時の周波数変化として計測できることを見出した(論文執筆中)。他方、分子間熱反応に関しては、電子基底状態における選択励起は困難であり、高濃度溶液を用いる必要がある。しかし、高濃度溶液を用いると生成物が光路上に析出したため、集光位置を移動させながらポンプ・プローブ測定するために、サンプルフォルダーに電動ステージを導入した。現在、測定結果を解析中である。
|