金属ナノ構造に光を照射することで励起できる局在表面プラズモンは、物質の光応答を増強する手段として幅広い応用が期待されている。新たな応用としてプラズモン誘起化学反応が近年注目を集めている。既往研究では、分子集団を観測し、プラズモンの局在性の情報が失われ平均化された応答に基づいた議論に止まっており、どのような因子が反応機構、素過程を決定するかは未知の領域で反応機構の詳細な理解は進んでいない。本研究は、プラズモン誘起解離反応の素過程に関わる因子を、光走査型トンネル顕微鏡(光STM)を用いた単一分子の反応の解析により解明する。特に金属との相互作用によって形成される吸着分子の電子状態に着目し、分子の電子状態と反応の素過程との関係を系統的に調べることで、プラズモン誘起化学反応の機構解明、さらにはプラズモンと分子の相互作用に関する基礎的な知見を獲得する。本研究では二原子分子を対象に、反応素過程を系統的に調べ比較することで、プラズモンと分子の相互作用および反応機構を解明する。 これまで本研究では、銀基板表面上に強く化学吸着した酸素分子のプラズモン誘起解離反応はプラズモンの緩和過程で生じたホットキャリア(電子、ホール)の分子への移動により起こることを単一分子レベルで解明してきた。2020年度は酸素分子の解離反応の機構を詳細に解明するため、STM探針から酸素分子へのトンネル電子(またはホール)注入により起こる解離反応を詳細に検討した。解離反応効率のエネルギー依存性ならびに反応速度の電流強度依存性から、酸素分子の解離はO-O伸縮振動の倍音振動の多段励起を介して起こることを明らかにした。さらに解離反応のエネルギー障壁を見積もり、解離反応のポテンシャルエネルギー曲面を描いた。この研究成果をまとめた論文を論文誌に投稿し、現在査読中である。
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