研究課題/領域番号 |
18H01949
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 貴義 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60270790)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超分子 / 誘電性 / プロトン移動 / 磁性 / 極性結晶 |
研究実績の概要 |
極めてフレシキブルな構造を分子中心部にもち、周辺部分に硬くかつ分子間相互作用が可能なフェニレン基を有する分子シントンであるdibenxo[24]crown-8等に基づく超分子構造を用いて、新規な分子集合体を形成し、機能開拓を進めた。開殻分子である[Ni(dmit)2]をアニオンとして用い、カウンターカチオンとして、ピリダジン、ピリジン誘導体を選択し、検討を進めた。これらのカチオンは、結晶内に形成されるdibenxo[24]crown-8の1次元カラム内に包接され、運動の自由度を有していた。ピリダジンを含む結晶については、分子運動に起因する負の1軸性熱膨張が見られるとともに、特異な磁気挙動が観察され、後者については、分子間相互作用の温度依存性を考慮したモデルで再現することが出来た。さらに、ピリジン誘導体を用いた系については、リラクサー型強誘電応答に類似した挙動が見られた他、水分子を含む結晶において、分子回転にアシストされた水分子輸送が示唆されたため、メカニズムの詳細についての検討を開始した。 超分子カチオンを用いた結晶の対称性制御と対称性に基づく機能開拓を進めた。[MnCr(oxalate)3]が形成する強磁性2次元ハニカム構造にbenzo[18]crown-6とフルオロアニリニウム誘導体からなる超分子カチオンを導入した系について、重点的に検討を行った。m-fluoroaniliniumを用いた系では、アリール基の結晶内でのflip-flop運動が見られ、誘電率の温度依存性に明確な緩和を示した。一方、o-fluoroaniliniumを持ち多形では、1次相転移に付随した、常誘電-強誘電転移が見られたため、ME couplingについて、検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4-aminopyridinium/dibenzo[24]crown-8を超分子として用いた系では、dibenzo[24]crown-8が形成する1次元カラム内に4-aminopyridiniumと水分子が共存する構造が得られ、結晶構造を保ったまま70%の水分子を脱着できることを見出した。結晶状態を保つため、水分子の吸脱着過程を単結晶X線構造解析で追跡することが可能であり、水分子が再吸着する際には、4-aminopyridiniumの回転が結晶内での水分子輸送をアシストしていることを明確に示すことが出来た。極めて興味深い水輸送機構であり、生体系を含め水分子輸送研究者に与えるインパクトは大きい。さらに、特殊な輸送機構を反映し、H2Oの吸着速度がD2Oと比較して2倍となるようなデータも得られており、今後、H2OとHTOの分離等にも応用できるものと期待される。[MnCr(oxalate)3]とo-fluoroanilinium/bdnzo[18]crown-6からなる系については、は強磁性と強誘電性が明確に共存する分子性結晶として、ほぼ初めての例であり、予備実験から、ME couplingを示す可能性が極めて高いことが判明した。これまで、無機物にほぼ限られていたmultiferroic材料に新たな地平を与えるものとして、当該分野におけるきわめて大きなブレークスルーであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
4-aminopyridiniumの回転に基づく特異な水分子輸送系、および[MnCr(oxalate)3]をベースとした分子性multiferroic材料は、世界的にも類例がなく、またきわめてインパクトの高い研究成果を与えるものとして、研究の特段の進展を図る必要がある。この他にも、分子性リラクサー型強誘電体や分子運動に伴う負の1軸性熱膨張示す系などについて、有望な萌芽が数多く見出されている。超分子アプローチに基づく分子性材料開拓において、世界的にもイニシアチブをとるべき重要な研究段階に入っており、できるだけの研究資源・人的資源を導入して研究を進める。
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