研究課題/領域番号 |
18H01952
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 尚平 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30580071)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 励起状態芳香族性 / 液晶 / 接着 |
研究実績の概要 |
最低励起一重項状態(S1)の励起状態芳香族性について理解を深め、これを積極的に分子設計に活かし、過去に例のない動作原理に基づく光機能材料を創出することを目指して研究を進めた。具体的には、トリフェニレン部位をもつV字型液晶分子(FLAP)を短工程かつ高収率で大量合成できる方法を確立し、ガラス基板に挟んだときの接着力が室温で1 MPa以上となることを示した。この液晶分子は可視光を吸収しないことから透明であり、一方で365 nmの紫外光を吸収する。紫外光によって励起されたV字型分子骨格は励起状態芳香族性の発現に伴って平面型へとコンフォメーション変化を起こすことがTD-DFT計算から示された。平面構造からの蛍光量子収率は1%程度と低いことから、効率的な光熱変換効率が期待できる。実際、このトリフェニレンFLAP液晶は紫外光照射している間は熱を発して凝集力が低下するため接着力が半分以下まで下がることが示された。光照射を止めると室温の接着力は元どおりの1 MPa以上の値に戻り、化合物の分解も見られないことから、光熱変換を利用した「光で剥がせる液晶分子接着材料」として特許を出願する。本発明は、研究代表者が以前開発した従来のライトメルト接着材料(アントラセン部位の光2量化反応を光融解に利用したもの)とは、合成の容易さ、光融解メカニズム、自発的な接着力回復の全てにおいて明確に異なるものである。今後、さらに学術的な基礎データを集めて国際雑誌への投稿を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記実績に記載した通り、励起状態芳香族性によりS1で平面化するトリフェニレンFLAP骨格を合成することに成功し、光熱効果を利用した新しいV字型液晶接着材料を開発した。高い凝集力を実現できるFLAPのV字型分子骨格を維持しつつ、それでいて事業化を見越して合成の容易さを追求した分子設計であり、透明性、ガラス基板への接着性、光照射による接着力の低下、リワーク性などにおいて産業的な要求特性を満たしている。すでに京都大学の知的財産部と打ち合わせを終え、共同研究企業と共同で特許出願を進める準備に入った。
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今後の研究の推進方策 |
さらに学術的な基礎データを集めて国際雑誌への投稿を目指す。具体的には、XRDによりカラムナー液晶の相を同定し、光応答時のピコ秒からナノ秒までにおける励起分子および励起分子近傍のパッキング構造の変化を時間分解電子線回折法により追跡する。XRDによる液晶相の同定には名古屋大学の原光生助教、時間分解電子線回折法による分子動画の作成には筑波大学の羽田真毅准教授の協力を得る。さらに、励起状態芳香族性によるS1での平面化を引き金とするパッキング構造の乱れがどの程度まで光融解現象に寄与しているのかを明らかにするべく、トリフェニレンFLAPの励起状態芳香族性発現の鍵となっている8員環を水素化還元した類縁体を合成し、これを比較化合物として検証を進める。
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