研究課題
これまで一般的なESRで用いられてきたマイクロ波の振動磁場は,もっぱら直線偏光(偏波)であった.これを左右どちらかの円偏波にできれば,ESRにいわば新しい横軸を与えることができる.円偏波マイクロ波を用いたESRは過去にいくつかの試みがなされているが,本研究では,汎用のSQUID磁束計に円偏波マイクロ波を導入して,定常的な縦磁化の変化量を検出することでESR信号を検出する装置系を開発した.円筒導波管の上端にガン発振器やポーラライザーなどからなる円偏波発生系を接続し,導波管内部の中央付近に試料(アキラルな標準試料として,ニトロニルニトロキシドラジカルの微結晶)を入れて2 K程度の低温環境で磁化を測定した.測定はすべてVバンド(69 GHz帯)で行なった.導波管内の偏波状態をLR(左右円偏波)基底で考え,静磁場の印加・反転に伴う磁化の減少率が偏波状態だけで決まっていると仮定すると,磁化の値から偏波比を求めることができる.R円偏波を照射した場合の,磁化Mの減少率から求めた偏波比は0.69/0.31であった.一方,L円偏波の偏波比は0.39/0.61であった.偏波比が0または∞から逸脱する原因として,当初は,導波管端の反射による反旋円偏波の混入が疑われたが,管端に磁性体ベースの電波吸収材を置いて測定しても,顕著な改善は見られなかった.管端反射以外の原因として,管内壁やホーンアンテナ直下の真空シール部(窓材)の透過・反射による反旋円偏波の発生,あるいは,基本モード以外の高次の伝播モードの影響を考慮する必要がある.
2: おおむね順調に進展している
初年度には,Vバンド(69 GHz帯)マイクロ波での(i)電磁場シミュレーション,(ii)円偏波発生系と導波管を接続した試作機の製作,(iii)アキラルな標準試料による円偏波スペクトルの観測まで行なった.これらはほぼ当初の計画どおりのものである.ただし,導波管端での反射による反旋円偏波の混入を電波吸収材で低減させたにも関わらず,良好な偏波度(純度の高い円偏波)の達成には至っていない.
今年度の実験結果から,導波管内の伝播モードが最適化されていない可能性が示唆される.今後は,動作周波数と管径の変更を検討する必要がある.使用中のSQUID磁束計に無理なく接続できるという条件から,次期試作機の動作周波数をQ/Kaバンド(34 GHz前後,波長9 mm前後)とする.管内壁での反射に伴う高次モードの発生を極力抑えるために,導波管の内面研磨処理を専門の金属加工業者に依頼して行なうことを検討する.
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