これまで一般的なESRで用いられてきたマイクロ波の振動磁場は,もっぱら直線偏光(偏波)であった.これを左右どちらかの円偏波にできれば,ESRにいわば新しい横軸を与えることができる.円偏波マイクロ波を用いたESRは過去にいくつかの試みがなされているが,本研究では,汎用のSQUID磁束計に円偏波マイクロ波を導入して,定常的な縦磁化の変化量を検出することでESR信号を検出する装置系を開発した.円筒導波管の上端にガン発振器(またはDRO発振器)やポーラライザーなどからなる円偏波発生系を接続し,導波管内部の中央付近に試料(アキラルな標準試料として,ニトロニルニトロキシドラジカルの微結晶)を入れて2 K程度の低温環境で磁化を測定した. 前年度に引き続き,動作周波数をQ/Kaバンド(34 GHz前後,波長9 mm前後)とした測定系を製作し,完成させた.導波管内の試料位置での電場・磁場強度や偏波状態を直読することは極めて困難なため,アンテナ端(発振器を接続した管端の反対側)から自由空間に照射される電磁波を測定した.ベクトルネットワークアナライザーに励振系を接続して電場・磁場強度から偏波状態を求めた結果,左右円偏波の振幅比はおおむね0.9程度であった.一方,導波管内部にアキラルな標準試料を入れて磁化を測定し,その値から換算して求めた偏波比は0.47/0.53であった.偏波度が劣化した原因としては,導波管内部,特に管端での反射や管の軸対称からのずれによる高次の伝播モードの混入が考えられる.さらに,有限の体積・直径の試料を導波管内に完浴させたことにより,偏波比の空間分布の影響がより長波長の動作により顕著に現れた点も無視できない.
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