研究課題/領域番号 |
18H01956
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
久保 和也 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (90391937)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性マルチフェロイクス材料 / 強磁性 / 誘電応答 / 超分子カチオン / 協奏化 |
研究実績の概要 |
当該年度は、超分子カチオンローターと強磁性金属錯体を構成分子とする結晶と、カルコゲナディアゾール誘導体とクラウンエーテルを結合させた有機分子からなる有機結晶について、分子性マルチフェロイクス発現の機序を探った。 前者については、メタフルオロアニリニウム・trans-syn-trans-ジシクロヘキサノ[18]クラウン-6からなる超分子カチオンと、マンガン・クロムオギザレート金属錯体アニオンからなる複合結晶の構造と磁性ならびに誘電応答との相関を探った。この錯体は、複雑にディスオーダーした超分子カチオン部位と、二次元ハニカム構造をもつオギザレートアニオン性金属錯体部位が交互に積層した構造を構築していた。超分子カチオン周りを囲むカチオン分子により、メタフルオロアニリニウム分子の回転運動に対するエネルギー障壁が高く、弱い誘電応答を示すにとどまったが、アニオン錯体内に存在するマンガンとクロムイオンに存在するS = 5/2とS = 3/2スピン間に強磁性相互作用が働き、5.5 Kで強磁性転移をが起こることを明らかにし、分子性マルチフェロイクス発現の端緒を得ることに成功した。 また、セレナディアゾールとベンゾ[18]クラウン-6を直接結合させた分子と、オルトフルオロアニリニウムからなる結晶、(セレナディアゾール-ベンゾ[18]クラウン-6)(オルトフルオロアニリニウム)(BF4+)の作製に成功し、X線結晶構造解析から、結晶内で水素結合を介した超分子的な相互作用を構築できることを明らかにした。この結晶では、オルトフルオロアニリニウム周りに存在するアニオン分子のため、カチオン分子の分子運動による誘電応答は小さいが、局在スピンと分子運動の協奏が可能な系では初めて構造と物性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、当該年度は主に、2次元ハニカム構造をもつマンガン・クロムオギザレート錯体と超分子カチオンとの複合結晶を用いて、分子性マルチフェロイクス発現の機序を得ることが目標であり、予定通りの成果を得ることができた。また、「研究実績の概要」でのべたマンガン。クロム錯体系では、カチオンを変化させた種々の複合結晶を得ることができ、分子性マルチフェロイクス発現の機序得るに十分な物質系を構築することができた。 また、カルコゲナディアゾール系の化合物は、当初の計画では次年度以降に計画を遂行する予定であったが、当初の計画を上回る進捗がみられた。カルコゲナディアゾール部位のラジカルアニオン化が、今後の課題となるが、純有機物でのマルチフェロイクス発現の機序を得ることができる重要な化合物であり、分子性マルチフェロイクスデバイスなどの開発の基礎となる化合物を、初年度で得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 超分子カチオンとマンガンクロムオギザレート金属錯体系の結晶について、種々のカチオンとの組み合わせにより、さらに合成を進め、超分子カチオンー金属錯体複合系におけるマルチフェロイクス発現に対する機序を得る。 (2)上述のメタフルオロアニリニウム・trans-syn-trans-ジシクロヘキサノ[18]クラウン-6からなる超分子カチオンと、マンガン・クロムオギザレート金属錯体アニオンからなる複合結晶では、カチオン分子周りの立体障害が大きく、回転が阻害される傾向がみられた。そこで、研究計画でも示すような、キノン誘導体を架橋配位子として用いた錯体系についても研究を発展させる。この系は、オギザレート金属錯体と同様の多孔性金属錯体を構築することができ、その空隙はオギザレート金属錯体より大きく、空隙に取り込む超分子カチオンの分子回転に対する回転障壁を軽減できる可能性が高い。当面は、配位子ならびに金属錯体複合体の作製法の確立を目指す。 (3)(セレナディアゾール-ベンゾ[18]クラウン-6)(オルトフルオロアニリニウム)(BF4+)の研究をさらに発展させる。具体的には、当該物質のラジカルアニオン塩の作製を目指す。電解結晶成長法や水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤を用いた化学的還元法を用いた結晶化を行う。
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