超分子カチオンと金属錯体からなる単結晶を作製し、誘電応答と磁性の相関するマルチフェロイクス材料開発の端緒を得ることを目的とした。我々は、これまでに超分子カチオンからなる柔粘性結晶が、強誘電転移を起こすことを明らかにしている。本研究課題では、結晶内で超分子カチオンが示す動的構造を、有機ラジカルや金属錯体から構築される強磁性アニオンと複合化させることで、強誘電性と強磁性の協奏化が可能な分子性結晶の設計と合成を行った。この研究で最も重要となるのは、結晶内で超分子カチオンが回転や振動するための構造制御法の確立である。そこで本研究では、超分子カチオンの固定子として導入するdicyclohexano[18]crown-6の立体構造についてまず検討した。クラウンエーテルにシクロヘキサン環を導入することによって回転分子周りの空間を確保し分子運動を制御する方法を探った。不斉炭素原子をもつdicyclohexano[18]crown-6のtrans-syn-trans (tst)体を合成し、m-フルオロアニリニムが存在する溶液と反応さることで超分子カチオンを得た。この超分子カチオンと強磁性マンガン-クロム-オギザレート架橋型錯体を複合化させ、単結晶の作成に成功した。この結晶を用いて分子性結晶における誘電性と磁性の相関について明らかにした。つぎに異なる分子運動制御法を検討するため、環サイズを変化させたクラウンエーテルとアニリニウム誘導体からなる超分子カチオンを、常磁性のポリオキソメタレートアニオンと複合化した結晶を設計合成し、水素結合による新たな分子運動制御法を確立した。さらに、dibenzo[18]crown-6とm-ハロゲノアニリニウムからなる超分子カチオンと、ニッケルジチオレン配位子からなる複合結晶を作成し、回転分子に導入した置換基の化学圧力による分子運動制御法も確立することができた。
|