研究課題/領域番号 |
18H01959
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鍋島 達弥 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80198374)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超分子 / 金属錯体 / 自己集積 / 分子ケージ / 分子認識 |
研究実績の概要 |
目的とする分子集合体のラセン型金属錯体ユニットの前駆体として、2,2'-ビピリジンを金属配位部位として鎖にもつトリポダンドを設計し、合成した。この分子はそれぞれのビピリジンの一方のβ位にホルミル基を置換基として有する。まずこれらのトリポダンドをラセン構造をもつFe(II)やRu(II)錯体に変換する条件を検討し、特に合成が難しいRu(II)錯体ではマイクロ波反応装置を使うことで良好な収率で得ることに成功した。こうして得られたラセン型錯体と種々のジアミンとの脱水縮合反応により動的共有結合であるシッフ塩基形成を行ったところ、二つのアミノ基を繋ぐスペーサーの構造によって、二つのラセン型錯体ユニットからなるラセン型の柱状二量体や、特にtrans-1,4-ジアミノシクロヘキサンを使った場合では、四つのユニットからなる正四面体型錯体ケージの選択的でほぼ定量的な合成に成功した。NMRの結果からはこれらは全てのラセンのヘリシティーが同じであるホモキラルな自己集積体であることが示唆された。いくつかの正四面体型錯体ケージにアニオン性のポリオキシメタレートを作用させると沈殿が生じた。これを単離してスルフィドの酸化反応の触媒に用いたところ、興味深い選択性を示すことが明らかとなった。本年度に合成したラセン型錯体について光学活性カラムを用いて光学分割を試みたところ、いくつかのものについては純粋なエナンチオマーを得ることができた。さらに、ラセン錯体ユニットが有するホルミル基との反応の相手として、ジヒドラジドを用いたところ、ヒドラゾンが定量的に生成し、二量体が選択的に得られることも明らかにした。以上のように次年度につながる有用な基礎的知見をいくつも得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した、ラセン型錯体の前駆体となるトリポダンドを複数合成することに成功し、それぞれFe(II)やRu(II)錯体への変換を達成した。Fe(II)の場合は室温で速やかに反応して定量的に反応は完結し、Ru(II)錯体では溶媒や反応条件を種々検討することで良好な収率を与える条件を見いだすことができた。また、いくつかのラセンユニットについては複数の異なる光学活性カラムによる精製を検討することで、光学分割に成功した。シッフ塩基形成を利用した二量体と四量体の作り分けにも成功し、ケージ分子では、サイズの異なるものの合成だけでなく、予備的実験ではあるものの、アニオン性の機能性化合物との反応により得られた複合体がこれまでとは異なる触媒活性を示すなど、これまであまり例のない注目すべき結果も得ることができた。またシッフ塩基形成だけでなく、ヒドラゾン形成による自己集積法も見いだすなど、新しい自己集積体を開拓する手法も確認することができた。このように次年度に向けて非常に有益な知見をいくつも得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ホモキラルな柱状二量体や正四面体ケージ型四量体の合成について、さらに他の種類のジアミンスペーサーを用いた合成を試みる。特に、初年度に予備的知見は得られているが、スペーサーとなるジアミンの中央に2,2'-ビピリジンを導入した化合物とホルミル基を持つトリポダンドとの縮合反応について最適条件を見つけ、ケージなどの集合体の高収率合成を実現する。スペーサーにビピリジンを導入した自己集積体は、そのビピリジン部位でさらに別の金属との錯形成が可能となるため、触媒能や分子認識能などの多様な機能が期待される。また、トリポダンドの鎖の長さを変えるとfac型ではなくmer型の錯体が生じることもわかってきたので、これまで全く検討していなかったmer型錯体とジアミンスペーサーとの反応についても検討する。また、上記の自己集積体の合成方法としてシッフ塩基以外の結合生成を利用したものについても検討する。ラセン型の金属錯体ユニットの光学分割を、これまで行ってきた光学活性カラムを用いた方法だけでなく、光学活性な側鎖を導入することなどによりさらに推し進め、収率向上と収量の増加を図るとともに、得られた光学活性体を用いたキラルな自己集積体の合成を試みる。さらに生じる自己集積体間の相互変化について検討を開始する。
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