研究実績の概要 |
トリス(3-ヒドロキシフェニル)メタン誘導体をピボット部位として持つ三脚型トリス(ビピリジン)配位子Lを合成し、その錯形成挙動と、錯体のジアミンとのイミン結合形成による自己集積体形成挙動について検討を行った。 配位子Lの鉄(II)錯体の1H NMRを種々の重溶媒中で測定したところ、この錯体は溶液中でfac体とmer体の二つの立体異性体の平衡混合物として存在し、その比率が溶媒に依存して大きく変化することが明らかとなった。置換活性なトリス(ビピリジン)鉄(II)錯体のfac/mer異性体比率が溶媒に依存して変化した報告はこれまでになく、本系は初の例である。 ROESY測定から、mer体は2本のビピリジン鎖と金属イオンで構成される環を残り1つのビピリジン鎖が自己貫通した構造を取っていることがわかった。また、本系の溶媒依存的fac/mer異性化では、ピボット部位の存在がmer体の自己貫通構造の鍵となっていることが示唆された。異性体比率から算出したfac体とmer体のエネルギー差と各種溶媒パラメータとの相関を調べたところ、誘電率や双極子モーメントなどの一般的な溶媒パラメータとは良い相関を示さず、代わりに物質の溶解性の指標となるHansen溶解度パラメータとよい相関を示した。次に、この錯体を用いて、ジアミンとのイミン結合形成による自己集積体の構築を検討した。trans-1,4-シクロヘキサンジアミンを反応させた場合は、錯体4分子とジアミン6分子がイミン結合を形成し架橋した正四面体型四量体である超分子構築体が選択的に得られた。また、いずれの反応においても、自己集積過程で異性体混合物であった錯体はすべてfac体となって、超分子が形成されるという興味深い結果が得られた。
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