研究実績の概要 |
2019年度は、meso位の窒素上に置換基をもつ5,10,15,20-テトラアリール-5,15-ジアザポルフィリン(TADAP)について、2つの化合物群を新たに構築した。また、窒素上に置換基をもたない5,15-ジアザポルフィリン(DAP)の銅錯体を題材として、その励起ダイナミクスの解明に取り組んだ。TADAPについては、π平面の上下がアルキル鎖で架橋されたストラップ型の誘導体(化合物群I)とmeso位の窒素でトリフェニルアミンが連結された誘導体(化合物群II)を標的とし、代表者らが開発した鋳型環化反応を用いて合成することに成功した。いずれの化合物群においても、20π―19π―18π間の酸化・還元反応は可逆的に進行し、光物性および磁気特性が酸化状態に連動して大きく変化することが明らかとなった。化合物群Iは、アルキル鎖がポルフィリン環の環電流効果を直接反映する。そこで、核磁気共鳴測定と理論計算により18πと20π電子系化合物の環電流効果を評価し、それぞれの芳香族性と反芳香族性を定量化することに成功した。また、化合物群IIは、電気化学的酸化によりアミン部位で酸化的カップリングを起こし、電極表面でポリマー化することが明らかとなった。合成した一連のTADAPの18πジカチオンは長波長可視領域に大きな吸収帯を示すが、化合物群IIについては、電荷移動相互作用に由来する吸収帯が近赤外領域に存在することも確認している。この結果は、増感剤としての利用を図るうえで有用な知見である。一方、DAPの銅錯体については、置換基が異なる数種類の誘導体を合成し、化学的手法を用いて一重項酸素発生効率を評価した。さらに、過渡吸収測定およびリン光寿命測定により三重項励起状態のダイナミクスを調べ、外周部に導入した置換基との関連について明らかにした。得られた研究成果は、4つの学会で発表したほか、1報の論文として報告した。
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