研究実績の概要 |
2020年度は複数の課題に取り組んだ。まず、meso位の窒素上に置換基をもつ5,10,15,20-テトラアリール-5,15-ジアザポルフィリン(TADAP)について、2つの化合物群を新たに構築した。一つ目は、TADAPコバルト錯体であり、前駆体となるジピリンと2価のコバルト塩を撹拌するだけで目的物がほぼ定量的に生成することを見いだした。得られたコバルト錯体の電気化学的性質を調べた結果、ポルフィリン環に加えコバルト上での酸化・還元も可逆的に進行し、π系の吸収特性が酸化状態に連動して大きく変化することが明らかとなった。二つ目は、四つのmeso位にカルボキシフェニル基を持つTADAPであり、代表者らが開発した鋳型環化法を利用して銅錯体を合成することに成功した。前駆体となるエステル体は水に難熔だが、カルボン酸塩は水に易溶であり、水溶性TADAPの初めての例となる。この誘導体もπ系の吸収特性が酸化状態に連動して変化し、19πラジカルが近赤外領域に強い吸収帯を示すことを確認している。一方、カルボキシ基を有する水溶性TADAPの合成を検討する過程で、meso窒素上のアルキル基にエステル部位を導入すると、塩基性条件下で脱アルキル化が進行し、meso窒素上に置換基をもたないDAPの銅錯体が生成することを見いだした。この手法は、従来のDAP合成で用いられていたアジ化ナトリウムの使用を回避できる点で優れており、DAP金属錯体の新規合成法になり得ると考えている。また、昨年度に続きDAP銅錯体の光物性を詳しく調べるため、過渡吸収測定とリン光寿命測定により、ポルフィリン環に導入した置換基がDAP励起状態のダイナミクスおよび一重項酸素発生効率に与える影響を明らかにした。得られた研究成果について、9つの学会発表を行ったほか、1報の論文として報告した。その他、課題に関わる内容の総説1編を執筆した。
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