研究実績の概要 |
2021年度は複数の課題に取り組んだ。まず、meso位の窒素上に置換基をもつ5,10,15,20-テトラアリール-5,15-ジアザポルフィリン(TADAP)について、2つの化合物群の研究を発展させた。一つ目の課題はTADAPコバルト錯体である。前年度に開発した鋳型環化法を利用して数種類のコバルト錯体を合成し、その酸化還元挙動に対する軸配位子の効果を詳しく調べた。その結果、コバルト中心とポルフィリンπ系の酸化還元電位が軸配位子の有無に依存して大きく変化すること、および、近赤外光の吸収特性も軸配位子の影響を受けることを確認した。さらに、ジアゾアルカンを基質とする分子内環化反応の触媒としてコバルトTADAP錯体を利用し、生成物の選択性に対する置換基効果を明らかにした。二つ目の課題は四つのmeso位に親水性の側鎖を持つTADAPの合成と利用である。これらの化合物も鋳型環化法を利用して合成し、ヒドロキシ基を8個有する誘導体が水溶性を示すことを明らかにした。興味深い点は、水溶性がポルフィリン環の電荷により変化する点であり、18πジカチオンの水溶性は対応する19πラジカルの水溶性に比べて向上することを見出している。また、銅錯体を用いて光照射による一重項酸素の発生効率を調べたが、今回合成したTADAP錯体ではその発生効率が低いことがわかった。この原因については、今後明らかにする予定である。そのほかの課題として、トリエチレングリコール部位を側鎖に有するTADAPの合成を行い、18πジカチオンが親水性を示すことを見出している。得られた研究成果について、国際会議での依頼講演を含む7つの学会発表を行ったほか、3報の論文として報告した。
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