研究課題/領域番号 |
18H01965
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
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研究分担者 |
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 一重項ビラジカル / シングレットフィッション / Baird芳香族性 / 三重項状態 / オルトキノジメタン / フェナレニル / アントラセン |
研究実績の概要 |
本研究は、一重項ビラジカル種の励起状態の性質を解明するため、シングレットフィッション(SF)とBaird芳香族性の二点に注目し、その発現機構の実験的・理論的解明、実験的検証に適した化合物の分子設計と実際の合成、さらには合成した化合物の物性評価を通じた新しい現象の探索を行うことを研究目標としている。 2019年度の研究計画であるが、まずSFに関しては、SFに適した一重項ビラジカル種の分子設計指針の確立とそれに基づく実際の化合物の合成を目標にした。一重項ビラジカル性を発現する基本骨格としてオルトキノジメタンを選択し、さらに一重項ビラジカル状態を熱力学的に安定化させる基本骨格としてフェナレニルを選択して、両者を併せ持つ化合物の合成を行った。最終目標化合物の合成・単離に成功したが、その化合物は非常に早く二量化することがわかった。結果的に新たに合成した化合物はSFには適さないものであったが、その二量化の反応機構は一重項ビラジカルならではのものであり、一重項ビラジカル種の反応性に関して、新たな知見を得ることができた。また、ラジカルπダイナーについては、新規フェナレニルラジカルの合成に成功し、その集合体がダイマーを超える等間隔に並んだ一次元鎖を与えることを見出した。 一方、Baird芳香族性に関しては、三重項状態が安定化するような分子の設計を量子化学計算を用いて行った。具体的には、三重項ビラジカル状態が熱力学的安定性を確保できるような設計指針を立てた。その指針に基づき設計した分子の合成に実際に着手し、現在目標化合物の合成・単離に向けて鋭意検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SFやBaird芳香族性の検証をめざした新規一重項ビラジカル種の合成について、かなりの進展が見られた。2019年度の特筆すべき成果は、オルトキノジメタン型の新規一重項ビラジカル種の合成・単離と、安定なラジカルπダイマーを志向した新規フェナレニルラジカルの合成・単離である。前者の化合物については、一重項ビラジカル性に起因する反応性を、分光学的測定および高精度の量子化学計算を用いて明らかにすることができた。この知見は、SFに適する分子を設計するうえで重要な指針を与えるものとなる。また、後者の化合物については、πダイマーを想定して合成を行ったが、等間隔に並ぶ一次元鎖という予想を超える集合体を与えることを見出した。ラジカル一次元鎖がSFにどのような効果を与えるのか不明なところが多い。今後は、理論計算も含めて、一次元鎖中での三重項励起子の挙動を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、SFに関しては、ラジカル一次元鎖中での三重項励起子の挙動を理論・実験の両面から明らかにしていく。また、SFを発現するのに適した小さな一重項ビラジカル性を持つ化合物として長いσ結合に注目し、新規化合物の設計と合成に取り掛かる。当研究室で非常に長いσ結合をもつ化合物がすでに得られているが、その骨格を用いてσ結合型SFという新たな領域を開拓していく。 Baird芳香族性の研究に用いる化合物の合成については、反応条件の検討を行い、本年度内に合成・単離を目指す。合成・単離に成功した場合は、各種物性測定を行い、三重項状態の安定性の評価とBaird芳香族性の発現の検証を行う。
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