研究課題/領域番号 |
18H01966
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久木 一朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (90419466)
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研究分担者 |
藤内 謙光 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30346184)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多孔質材料 / 水素結合 / 単結晶 / 外部刺激応用性 / パイ共役分子 / ヘキサアザトリフェニレン / カルボン酸 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
共役したパイ電子をもつ有機分子で構成される多孔質構造体は、多様な分子の選択により構造と機能を自在にデザインできるため、ホストゲスト機能性材料や光電子素子の観点から盛んに研究されている。本課題においては、汎用な水素結合基を高次に集積させることで、弱い非共有結合でありながら (1)X線回折で精密に構造解析できる単結晶性、(2)チャネル状の明確な大空間を内部に保持できる高い剛性、および(3) デザインの一般性をもち合わせた水素結合性の多孔質有機構造体を構築することを目的に研究している。 本年度は、ヘキサアザトリフェニレン、ヘキサアザトリナフチレン、ドデカアザトリナフチレン、テトラアザナフタレンなどの、非共有電子対を有する窒素原子がパイ共役構造に組み込まれたN-ヘテロパイ共役構造をもつ分子の新規合成と、合成できた分子を用いた水素結合性多孔質構造体の構築およびその分光と外部刺激応答性について検討した。その結果、ヘキサアザトリナフチレン誘導体は、塩化水素に応答して黄色から赤褐色への色調変化と蛍光消光を示すのに対して、カルボキシビフェニル基を周囲にもつヘキサアザトリフェニレン誘導体は、同様の色調変化に加え、酸への曝露時間に応じた蛍光発光色の変化を示すことが明らかとなった。他にも1gあたり1500平方メートルを超える大きな比表面積を有する結晶性の多孔質材料を作成した。 これらの結果は、有機分子を単純な弱い水素結合で自己組織化したにもかかわらず、安定で剛直な外部刺激応答性の水素結合性多孔質構造体が、構造デザインを経て構築できることを示しており、新しい有機機能材料の開発の観点から意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、カルボキシフェニル基を周囲6箇所にもつ一連の3回対称性のパイ共役分子が、永続的多孔性を有した水素結合フレームワークを構築するための有用な分子デザイン指針であることを示している。特にヘキサアザトリフェニレン誘導体で構築されたフレームワークは、著しい構造安定性を示す単結晶として得られる。そこでカギとなるヘキサアザトリフェニレン骨格に対して種々の長さおよび構造をもつアリールカルボン酸を導入し、フレームワーク内のチャネル空間径の変調・拡張を行った。また、より拡張されたパイ共役系であるヘキサアザトリナフチレンを用いたフレームワークの構築を行った。 前者ではビフェニルからターフェニルのような単純な構造伸長では限界があるものの、周辺基の積層様式を考慮することによって、1gあたり1500平方メートルを超える大きな比表面積を有する結晶性の多孔質材料の開発に成功した。また研究の過程で酸蒸気に応答して色調と蛍光色調を変化させる機能を有する系も見出した。後者からも、少なくとも360度まで加熱しても安定で、酸応答性を示す単結晶性多孔質フレームワークの構築に成功した。 一方、より多くの窒素原子をパイ共役系に組み込んだ骨格の合成は、予想以上に困難であり、収率の向上および再現性の確保に向けて一連の操作の最適化を行っている。また、当初より予想したことではあるが、より大きな空間を安定に構築するためには、剛直でより大きなパイ共役骨格が必要となり、このことは構成分子の有機溶媒への溶解性の低下により結晶化がより困難になることを意味する。しかしこの問題については、現在までに解決の糸口を見出しており、今後の研究においてその方法論の有効性を立証し、より多様な多孔質構造体を構築する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 今後も引き続き非平面性パイ共役構造のスタッキングを利用して、種々のチャネル径、形状および空間表面の性質をもつ一連の水素結合性多孔質構造体を構築する。 2) 特に、非共有電子対を有する窒素原子を芳香族縮環構造に導入することにより、外部から内部空間に拡散する化学種に対する空間表面の親和性および吸着選択性を積極的に制御する。また、その他のヘテロ元素を導入することによって、パイ共役分子の電子状態をデザインし、光学的・電子的に顕著な物性を有する多孔質構造体を構築する。 3)単結晶性を維持した状態で多孔質材料の活性化を行う。その結果得られる空の単結晶を利用した機能性材料の開発を行う。 例えば、ラセミらせんチャネルをもつ多孔性単結晶にキラル化合物を包接させてジアステレオチャネル空間を構築し、このキラル空間を利用して不斉認識、不斉反応が可能な、単結晶流路を構築する。
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