研究課題/領域番号 |
18H01974
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴富 一孝 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378259)
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研究分担者 |
木村 力 東京理科大学, 理学部第二部化学科, 講師 (40452164)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脱炭酸 / フッ素化反応 / ピリジン化合物 / 塩素化反応 / トリフルオロメチルチオ化反応 / アルドール反応 / 重水素化反応 / プロトン化反応 |
研究実績の概要 |
カルボン酸は自然界に広く存在しており、入手容易かつ重要な機能を持つ化合物である。このため、カルボキシル基の脱炭酸を伴う官能基変換反応は有用な分子変換反応として古くから研究されている。しかしながら、結合エネルギーの大きい炭素-炭素結合の切断を要する反応であることから往々にして激しい反応条件を必要とする。一方で、β位にカルボニル基を持つアルキルカルボン酸(β-オキソカルボン酸)は容易に脱炭酸を起こすことが知られている。筆者はこの性質に着目して、以前に、キラルアミン触媒を用いたβ-オキソカルボン酸の脱炭酸的塩素化反応を報告した。本報告はカルボン酸類の脱炭酸的ハロゲン化反応を不斉化した初の例である。この成果を基盤として、本研究ではβ-オキソカルボン酸の脱炭酸的官能基化反応のさらなる開拓、および本反応の駆動原理を利用した広範なアルキルカルボン酸類の変換反応の開発を目的とした。 一昨年度までに、ピリジル酢酸類を求電子的フッ素化剤と反応させることで脱炭酸を伴うフッ素化反応が円滑に進行することを見出している。当該年度は本反応の適用範囲を拡大した。求電子的塩素化剤、およびトリフルオロメチルチオ化剤を用いることで、対応する塩素化反応およびトリフルオロメチルチオ化反応が進行することを見出した。ピリジン化合物は医薬品化学において有用であることから、創薬分野への貢献が期待できる。また、第三級β-ケトカルボン酸のトリフルオロピルビン酸エステルを受容体とした不斉脱炭酸的アルドール反応を実現した。これは第三級カルボン酸を利用した不斉脱炭酸的アルドール反応の初の例となった。さらに、以前に筆者が開発したキラルアミン触媒を用いたβーケトカルボン酸の不斉プロトン化反応および不斉重水素化反応にも成功した。不斉炭素上に立体選択的に重水素を導入できる興味深い反応である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピリジル酢酸類の脱炭酸的塩素化反応およびトリフルオロメチルチオ化反応に成功した。これまでほとんど報告がなかったピリジル酢酸類の脱炭酸的官能基変換反応の応用範囲を拡大した成果であり、学術的に意義があると言える。また、βーケトカルボン酸の脱炭酸的不斉アルドール反応に成功した。第三級カルボン酸を用いた脱炭酸的不斉アルドール反応の初の例となった。 昨年度は本申請研究に関する査読付き国際学術論文を4報発表した。内1報はChemistry A European Journal誌でtop 10% most downloaded papersにエントリーするなど高い評価を受けた。これらのことから研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ピリジル酢酸類の脱炭酸的官能基化反応の不斉反応への応用を検討する。キラルブレンステッド酸を用いた触媒系のほか、アルドール受容体をキラルルイス酸で活性化する手法を検討する。また、一旦アリルエステル を経由して、これにPdやIr触媒を作用させることで脱炭酸を伴ってπアリル錯体を形成させる手法も検討する。ピコリン型のカルバニオンがπアリル錯体の対アニオンとして生成するため、このカルバニオンが求電子剤と反応することを期待する。キラル配位子を持つ金属触媒を用いることで不斉反応の実現を目指す。
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