芳香族化合物と脂肪族化合物の選択的認識にトリフェノキシ配位子を基盤としたカゴ型ホウ素錯体が有効であることはこれまでの知見として有していた。この際、フェノキシ配位子のオルト位に芳香環を付すことで、芳香族化合物を選択的に認識することが鍵である。この芳香環上に多様な置換基を導入し、それらが芳香族化合物/脂肪族化合物の認識の選択性に与える影響を精査した。100を超える反応条件を検討し、膨大な置換基効果をデータとして得ることができ、傾向をつかむことができた。この成果を公表論文として世に出すことができ、今後の新しい選択的反応の基礎となる知見を示した。 また、上記の膨大な量の相関データを機械学習に利用した。機械学習により置換基の選択性に対する効果が一定程度明らかとなった。一方で、これまでの化学的な観点からは理解が困難な部分も多く、客観的な機械学習により導出された新しい触媒構造デザインを検討することとした。候補である数種類の触媒を実際に実験的に合成し選択性を検討したところ、その中の一種がこれまでで最高の選択性を示すことが明らかとなった。また温度検討より、完全に芳香族化合物のみを認識する触媒として作用することを明らかとした。 カゴ型ホウ素錯体のフェノキシ置換基のオルト位に、ピレンを導入した錯体を合成した。この化合物に光を照射すると、ピレンの相互作用によるエキシマが発生していることを示唆する物性データが得られた。この条件で触媒反応を行うと、触媒活性が格段に向上することがわかった。これは、エキシマ形成による立体的効果で生成物の解離を促進していると考えている。また、エキシマ形成時のルイス酸性の変化も触媒活性に影響を与えていると推察している。 上記に示す結果から、制御因子を多く有するカゴ型金属錯体の利点を発揮した触媒設計と新しい反応場構築を達成することができた。
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