研究実績の概要 |
本研究では,複雑な多環性構造を有する天然物を効率的に合成する手法の確立を目的とし,これを達成するために,以下の二つのテーマについて研究を行なった。 1)タキソールの第二世代合成: 3-メトキシトルエンより合成したC環部と,シクロヘキサン1,3-ジオンより調製したA環部のカップリング反応で得られるアリルベンゾエート/アルデヒドのヨウ化サマリウムを用いた環化反応により,三環性化合物を効率的に合成する手法を確立した。得られた三環性化合物はジシリルエノールエーテ ルへ導き、エポキシ化を施し,ついで酸処理することより,5位と13位に水酸基が導入され,同時に橋頭位二重結合が形成されたタキサン骨格化合物を与えることを見出した。本化合物を用いて,タキソール合成の重要前駆体であるバッカチンIIIの合成を達成することができた。さらにオキセタン環構築の新手法を開発し,効率的なタキソールの全合成を達成した。 2)ネオツベロステニンの全合成: D-アラビノースから合成したアリル1,4-ジオールの7員環環状オルトエステルを経由するClaisen転位反応により,立体選択的に 二連続不斉炭素を構築できることを見出した。得られるアリル1,2-ジオールのワンポットOverman/Claisen転位によりネオツベロステニンのγ-ラクタム部位の合成法を確立した。これから誘導したα,β-不飽和エステル/アルデヒド体のヨウ化サマリウム環化によりネオツベロステニンのCD環部を一挙に構築し,四環性化合物であるオキソネオステニンの合成を達成した。オキソネオステニンに対して,当研究室で開発したイリジウム触媒を用いる還元的アルキル化を施すことにより,ラクタムカルボニル選択的にラクトンユニットを導入し,ネオツベロステニンの全合成を達成した。
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