研究実績の概要 |
本研究は、強固なSi-Cl結合の酸化的付加反応を鍵とするクロロシラン類の触媒的分子変換技術の開発と、学術的に未解明なSi-Cl結合の酸化的付加反応の機構解明に取り組んだ。昨年度から引き続き行った、カップリング反応を応用したクロロシラン類の分子変換反応開発では、パラジウムおよびリン系配位子の組み合わせにより、汎用性の高いアルキルアルミをカップリングパートナーとする選択的なクロロシランのアルキル化反応を見出し、結果をまとめて米国化学会誌Organic Letters に発表した。 また、2019年度までの取り組みにおいて、平面四座PNNP配位子(2,9-bis(diphenylphosphino)methyl-1,10-phenanthroline) を有する鉄(0)錯体が極めて強い電子供与性を示し、室温で容易にSi-Cl結合切断を達成することを見出した。さらに、機構解明に取り組み、本反応はラジカル機構で進行し、クロロシランが容易にヒドロシランへと変換されることが示唆されている。クロロシランを原料とするヒドロシラン合成は、ケイ素化学工業において最も重要な反応の一つである。本反応は、強固なSi-Cl 結合の切断を伴うため、 LiAlH4 などの高反応性試薬を量論量用いた手法が一般的である。これに対し、本研究で見出された、クロロシランのSi-Cl結合ラジカル開裂による、ヒドロシラン生成は、新しい効率的ヒドロシラン合成法として極めて有望である。本年度は、想定される反応機構の実証を目的として、高エネルギー加速器研究機構における、加速器研究施設を用い、系中で生成する鉄(I)中間体の直接観測に挑戦した。本取り組みにおいて、不安定な鉄(I)中間体観測のためのセルの設計指針を確立し、今後の測定に関して礎を築くことが出来た。
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