研究実績の概要 |
本研究では、配位子保護金クラスターの「金属コア部分」と「保護配位子中の芳香族部位」との間に働く非共有結合性の引力的相互作用のメカニズムを基礎的見地から解明するとともに、相互作用に誘起される光学物性応答や基質活性化などへと展開させることを目的とする。本年度は特に、最近の申請者らの研究において見いだされた「1,3-フェニレン架橋ジホスフィン配位子中のベンゼン環C-HとAu6骨格の間のAu-H相互作用」について詳細に検討した。具体的には、フェニレン芳香環に様々な電子求引性、電子供与性の置換基を導入し、金クラスター骨格と相互作用するフェニレン芳香環のπ電子密度の影響の効果を、各種分光スペクトル、X線結晶解析を用いて検討した。その結果、単結晶X線構造解析、NMRスペクトル、紫外可視吸収スペクトル解析により、これらすべてのAu6クラスターにおいて配位子架橋部のフェニレンと金骨格の間にAu-H相互作用が観察されたが、置換基の電子的性質の影響は顕著ではなく、電子的相互作用の寄与はそれほど強くないことが示唆された。一方、置換基の電子求引性が高いほどクラスターの安定性が向上することをみいだされており、Au-HC相互作用以外の要素が安定化に寄与している可能性があり、今後理論計算などを含めたさらなる解析が必要と考えられる。また、1,3-フェニレン架橋部の2位のCHをNに置き換えた2,6-ピリジル架橋ホスフィンを用いると、1,3-フェニレン型とは著しく異なる特性が観察され、詳細については次年度以降に詳細に検討する。
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