研究課題/領域番号 |
18H01987
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小西 克明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (80234798)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クラスター / 金 / 芳香族 / 相互作用 / π電子 |
研究実績の概要 |
本研究では、配位子保護金クラスターの「金属コア部分」と「保護配位子中の芳香族部位」との間に働く非共有結合性の引力的相互作用のメカニズムを基礎的見 地から解明するとともに、相互作用に誘起される光学物性応答や基質活性化などへと展開させることを目的とする。本年度は、初年度に行った「置換1,3-フェニレン架橋ジホスフィン配位子中のベンゼン環C-HとAu6骨格の間のAu-H相互作用」に関する知見を基盤として、1,3-フェニレン架橋部の2位のCHをNに置き換えた2,6-ピリジル架橋ホスフィンを配位子に用いたAu6クラスターについて詳細な検討を行った。その結果、1,3-フェニレン架橋配位子を用いた場合と著しく異なる挙動を示すことが明らかとなった。例えば、可視光照射下で自発的に核成長を起こし、特異的にAu7クラスターを与えた。得られたAu7クラスターは二色発光性を示し、その強度比は温度に依存するなど興味深い光学特性を示す。この結果を元に、種々の異種金属種との反応を検討したところ、特定の銅化合物と反応させた場合に合金型のクラスターが得られることが質量分析から示唆された。現時点で単結晶の作成には至っておらず、構造は不明であるが、この合金型クラスターは近赤外領域に強い発光を示すなど特異な光学特性を示すことが判明している。さらに、こうして得られた新規クラスターについて各種溶媒中で光学特性の評価を行ったところ、Au6クラスターの吸収スペクトル位置が溶媒の極性に依存することが見出された。こうした傾向は、1,3-フェニレン架橋型では観察されなかったことから、溶媒分子の相互作用によりピリジル部位の配向が変化することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は2,6-ピリジル基を架橋部とするジホスフィンで保護されたAu6クラスターに関する研究を中心に行い、昨年度までにおこなった1,3-フェニレン架橋配位子で保護されたクラスターとは大きく異なる反応性、光学特性を示すことを明らかとして、架橋部位とAu骨格の間に形成される相互作用の理解にあたって重要な知見を取得することに成功した。特に、吸収スペクトルの媒体極性への依存性は、本研究で目指している外部物質との相互作用の開拓のヒントとなりうる重要な成果である。また、当該Au6クラスターは可視光作用で自発的核成長や異種金属種との合金化、などによって従来の1,3-フェニレン架橋配位子保護型では得られない新規クラスターを与えることを見出した。これは当初全く予期していなかった現象であったが、本研究遂行において有用な新物質を与えるものであり、引き続き構造同定、外部物質との相互作用を詳細に検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに蓄積された実験的知見、特にAu-H相互作用が形成される置換フェニレン架橋ジホスフィン配位型Au6クラスターと、Au-H相互作用が形成されない2,6-ピリジル架橋ジホスフィン保護Au6クラスターとの構造的、電子的な違いを考察することで、金クラスター固有のAu-H、Au-π相互作用を支配する要因を明らかとする。また、2,6-ピリジル型Au6クラスターは近赤外域に強い発光を示す金-銅二元クラスターを特異的に形成するなど興味深い反応性を示す。今後は、新規に獲得したクラスター種を含めて包括的な検討を行い、金骨格と架橋芳香族ユニットの間に働くAu-H相互作用ならびにAu-π相互作用の本質を明らかとするとともに、外部物質との相互作用による摂動効果を詳細に調査し、2種の相互作用モードの戦略的制御を通じた可逆応答系の構築を試みる。
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