研究課題/領域番号 |
18H01999
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
珠玖 仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (10361164)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 走査型プローブ顕微鏡 / 生体医療材料 / 三次元培養 / 生物電気化学 / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、走査型電気化学顕微鏡‐走査型イオンコンダクタンス顕微鏡システムにより細胞とバイオマテリアルを複合した生体医療材料を評価する。探針電極が100 nm以下のスケールに突入することによって顕在化してきた探針‐基板間の相互作用、探針および試料表面の表面電荷について詳細に検討する。特に、異なる細胞種やタンパク質、細胞外マトリックスが混在する複雑な組織モデル系試料を対象に、nmスケールの形状と機能情報を集約し、生体材料の設計・選定、細胞‐細胞間相互作用や微小環境の制御を通じて、新しい組織モデルの構築に貢献することを目標とする。探針電流値に対する探針内壁および細胞試料表面の電荷密度や探針近傍のイオン強度の影響を精査し、顕微鏡画像の解像度・品質向上に反映させることで、生体医療材料を形状と機能の両面から評価する。 走査型プローブ顕微鏡SPMにより組織モデルの高解像度画像を取得し、標的細胞から極微量サンプルを回収して網羅的遺伝子発現解析を可能とする装置システムを開発するために、アプローチカーブの解析、形状画像と電気化学画像の干渉、プローブの化学修飾、表面電荷マッピング、培養細胞・細胞塊の評価、組織モデル系における生体材料-生体医療材料複合体の多項目分析、などの課題について重点的に取り組む。 2018年度は、アプローチカーブの解析、形状画像と電気化学画像の干渉、プローブの化学修飾、表面電荷マッピングに取り組んだ。培養細胞・細胞塊の評価、組織モデル系における生体材料-生体医療材料複合体の多項目分析についても、前倒しで検討を開始することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定システムの感度の問題などにより、当初の計画通りの結果が得られていない検討項目がある一方、先取りして実施できた項目もあり、総じて順調に進展していると判断した。 1)アプローチカーブ解析:走査型電気化学顕微鏡‐走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SECM-SICM)システムにより酵素固定化膜や酵素固定化微粒子を対象に、アプローチカーブを取得した。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)やマウス胚性幹細胞(mESC)の内在性酵素であるアルカリホスファターゼ(ALP)活性の評価を検討した。単層状に播種したhMSCシートに対してアプローチカーブを取得し、沖合に比べサンプル近傍でALP活性に起因する電流上昇が観測された。 2)形状画像と電気化学画像の干渉:酵素固定化微粒子のSECM-SICMイメージングでは、数マイクロメートルサイズの微粒子形状を解像することに成功した。一方電気化学イメージでは、単一微粒子レベルの酵素活性を可視化することはできなかった。微粒子集合体に対して、酵素活性を電気化学的に可視化することに成功した。hMSC やmESCを対象に1細胞レベルで形状-ALP活性の同時イメージングを検討した。その結果、SICM画像として明瞭な形状イメージを取得することに成功したのに対し、SECM画像として酵素活性を検出することはできなかった。 3)探針の化学修飾:酵素活性の検出感度を改善するために、SECM-SICM探針における炭素電極部分にPtを電解析出した。観測されるファラデー電流は増大し、SICM探針で観測されるイオン電流を妨害しないことを確認した。 4)表面電荷マッピング:SICM探針に充てんする電解質濃度を低く設定することにより、イオン電流のアプローチカーブからサンプル表面の電荷を解析した。電解質中に粒子が存在する系で、イオン電流のスパイク形状からピペット外部に粒子が放出される挙動を解析できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アプローチカーブによりイオン電流の距離依存性について引き続き詳細な検討を行う。SECM-SICMに加え、電気化学シリンジ-SICM探針におけるイオン電流挙動やアプローチカーブの検討を行う。 組織モデル試料の機能評価を検討するために、多機能プローブをサンプルに近接させ、形状や電気化学的機能評価、遺伝子発現解析を検討する。hMSCやES細胞に加え、がん細胞や血管内皮細胞、繊維芽細胞などの複合試料を調製する。 3次元培養系において、細胞と生体材料の相互作用、細胞間相互作用の評価を検討する。ナノマテリアルやハイドロゲル、エラストマー、多孔質膜など機能化学物質が共存する環境において、細胞形状、細胞機能に関する情報を取得し、培養組織モデルの品質向上やin vitroにおける生体内相互作用の再現・再構築にフィードバックさせる。
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