研究課題/領域番号 |
18H02005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 行広 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50503918)
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研究分担者 |
馬越 大 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20311772)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脂質ナノ膜場 / 電気泳動 / 分離 / 脂質ナノ膜場解析 |
研究実績の概要 |
脂質ナノ膜場内での電気泳動法の原理確立と応用への展開が今年度の目的である.このため,脂質ナノ膜場の解析法の確立は重要である.そこで,平面膜への応用も展開可能な表面増強ラマンに関する研究を実施し,金ナノ粒子を用いた表面増強ラマン解析により,高感度かつ部位特異的に脂質分子の解析が可能であることを実証した.さらに,電気泳動の過程において,第三成分を外部より添加し,膜状態の変化を誘起することで,分離性能の調整が期待できる.そこで,脂質ナノ膜場への第三成分の分配,脂質膜の物性変化を紫外可視スペクトルの二次微分法やラマン分光などを駆使して解析することに成功した.これにより,水溶液からの分子の添加により,膜のどのような特性を制御可能かという情報を得ることに成功した.さらに,膜・水溶液界面に機能性分子を提示するため,昨年度のバイセルフュージョン法の応用として,デンドリマーを有する集合体の作製ならびにキャラクタリゼーションを実施した.その結果,バイセルの世代数,バイセル脂肪酸・リン脂質の組成比により,バイセル様の集合の作製に成功した.これにより,昨年度の成果をもとに,この機能性バイセルを活用した機能性平面膜の作製が可能となった.また,電場のみだけではなく,化学反応波を平面膜に誘起し,分離に活用可能か否か検討も実施した.基礎検討として,リポソームの懸濁状態でBZ反応の挙動解析を実施した.その結果,脂質膜の疎水性・流動性がBZ反応の挙動に影響を及ぼすことを明らかとした.この結果より.作製される脂質ナノ膜場により,化学進行波の制御が期待でき,しかも電場との併用による分離性能の制御が期待できる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
原理確立ならびに応用への展開を可能とするためには,測定者間の誤差の少ない手法へと改善する必要がある.そこで,電気泳動観察デバイスの作製に取りかかった.電気泳動時は,ジュール熱および水の電気分解により気泡が発生しやすくなり,この気泡は,顕微観察の妨害になるととともに,膜への損傷も考えられる.そこで,電極を保持し,気泡が顕微観測部位に混入しないようなデバイスを3Dプリンターにより作製した.このデバイスにより,気泡が観察部位に侵入することを阻止できるようになり,高電圧印加が可能となった.次にガラス基板上に,脂質ナノ膜場を構築する方法を検討した.構築方法として,脂質/有機溶媒を乾固させ,水和させる方法や,LB法などを検討したが,生産性や脂質膜の均一性で満足のいく結果は得られなかった.一方で,vesicle fusion(VF)法による脂質ナノ膜場の構築は均一な脂質ナノ膜場の構築が可能であった.そこで,VF法を基盤として,一斉分離も視野にいれて,Poly(dimethyl siloxane)(PDMS)スタンプを微細加工技術により作製し,このPDMSスタンプによる,脂質ナノ膜場の大量生産を試みた.その結果,脂質ナノ膜場を同時に多量に作製可能とした.作製した脂質ナノ膜場に対して,電場印加を行い,脂質分子の挙動を解析した.その結果,荷電蛍光脂質の電気泳動挙動が観察された.これは,まだ基礎検討段階ではあるが,今回作製したデバイス・ナノ膜場構築法を用いることで,脂質ナノ膜場内で,電気泳動および電気泳動挙動の観察・解析が可能であることを示唆する結果である. 前述の研究実績の概要と併せて,研究の進捗は概ね,順調もしくは計画以上であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるため,分析法ならびに分離法としての脂質ナノ膜場電気泳動法の確立を目指す.そのため,界面動電現象の解明,脂質ナノ膜場解析,電気泳動デバイスの作製を達成し,これらの一連の成果をまとめるためのデータを取得していく予定である.また,昨年度までに実施してきた,各種平面膜の作製方法,電場以外の外部場や外来分子の導入による分離性能の制御という点に関しても基礎的な検討から応用まで実施していく計画である。さらに,分離対象物質に関しては,これまで検討していない膜内物質へ展開していき,研究を推進していく予定である.
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