脂質ナノ膜場内での電気泳動法の原理確立と応用への展開が今年度の目的である.このため,脂質ナノ膜場の作製法ならびに脂質ナノ膜場の解析法に関する研究は必須である.また、電場や外乱が膜場に及ぼす効果の解明も分離原理の解明ならびに分離の高性能化において重要になると考えられる. 今年度は作製する基板上脂質二分子膜(supported lipid bilayer: SLB)の範囲を拡大するため,bicelle fusionを用いたSLBの作製ならびに膜解析を実施した.その結果,bicelleにより簡便にSLBを調製可能であった.また,Vesicleやbicelleのほかにも脂質自己組織化材料を作製および特性の解析を実施し,これらを用いた平面膜の作製を検討していく予定である. ところで,これまでSLBの蛍光顕微法による膜特性解析は,感度や消光などの問題で特殊な装置が必要であった.そこで,新規のsolvatochromic色素を用いた二波長同時測定ならびにratio測定を試みた.その結果,本手法がSLBの膜極性(相状態)解析へ適用可能であることを見出した.さらに,scanning probe microscope(SPM)のtopography像とphase imageはナノドメインの評価において有用であることを実証した.この蛍光顕微分光とSPM解析の併用はSLBのマクロからミクロ領域の解析を可能にする有用なツールになると考えられる. 最後に,SLB中での電気泳動移動度の立式化,これらモデルの有効性を評価した.その結果,提案したモデル式は,実測定結果と一致した.一方で,モデルから外れた測定結果も観察された.モデル式では,障壁により泳動が妨げられる効果を加味していない.よって,モデル式からのずれは,この障壁による遅延効果が考えられ,以上からSLB内での電気泳動挙動の解明に成功した.
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