研究課題/領域番号 |
18H02006
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石坂 昌司 広島大学, 理学研究科, 教授 (80311520)
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研究分担者 |
中川 真秀 広島大学, 理学研究科, 助教 (70814903) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 界面・微粒子分析 / レーザー分光 |
研究実績の概要 |
エアロゾルを足場とした雲粒の発生過程は、気候変動予測における最大の不確定要素である。大気中には多種多様な微粒子が混在しているため、微粒子集合系の平均値解析では現象の解明に限界があり、個々の微粒子を直接観測可能な分析手法の開発が強く望まれる。本研究では、特に気候への影響が大きく、従来のレーザー捕捉法が適応できない黒色炭素粒子に着目し、単一の黒色炭素粒子を空気中の一点に非接触で浮遊させ、雲粒の発生を再現する新規計測法を開発することを目的としている。本研究を開始するにあたり、初年度は走査型レーザービームを用いたドーナツビーム型エアロゾル粒子捕捉光学系の構築を行った。倒立型光学顕微鏡と走査型ガルバノミラーシステムを設備備品として導入した。ガルバノミラーシステムを制御するためのコンピュータープログラムを作成し、レーザー光を空間的に円形走査し、対物レンズの焦点位置に直径数マイクロメートルから数百マイクロメートルの任意の大きさの捕捉空間を形成することに成功した。これにより、様々な大きさの黒色炭素微粒子を捕捉空間の中に閉じ込めて、空気中の一点に非接触で浮遊させることが可能となった。さらに、この光学系を拡張し、二本のレーザービームを同軸で対物レンズに導入したダブルビーム型レーザ捕捉光学系を組み立てた。二つの微小液滴を空気中に同時に捕捉するとともに、それらの水滴同士を接触させ融合する実験にも成功した。また、イメージング分光器と分光用冷却CCD検出器を用いて、単一黒色炭素粒子表面の化学反応をラマンスペクトルの変化として計測するための光学系を組み立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、走査型ガルバノミラーシステムならびに制御プログラムを作成し、新規ドーナツビーム型エアロゾル粒子捕捉光学系の構築を達成した。従来の光学系では、ドーナツビームの形成にアキシコンレンズを用いていたため、捕捉空間の大きさを変更することが困難であったが、走査型ガルバノミラーシステムを用いることにより、様々な大きさの黒色炭素粒子を捕捉することが可能となった。以上より、本研究課題は、当初研究計画通りおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
化石燃料の不完全燃焼により発生するスス(黒色炭素粒子)は、太陽光を吸収し大気の温度を上昇させる。この黒色炭素粒子の熱源としての働きは、二酸化炭素に次いで地球温暖化への影響が大きいと予想されている。一方、黒色炭素粒子が雲の発生を促すと、太陽光を遮り、大気の温度を低下させる。このように黒色炭素粒子は、温暖化と寒冷化の両方の因子として働くため、気候への影響を正確に見積もることが難しい微粒子である。一般に、炭素粒子表面は疎水性であるため、発生した直後のススは雲凝結核として振舞わないが、大気中を輸送される間に活性酸素と反応し、表面が親水化して雲凝結核としての機能を獲得すると考えられている。しかしながら、従来の微粒子集合系を対象とした実験では、黒色炭素粒子個々の化学組成を直接計測することが困難であった。そこで本研究では、『黒色炭素粒子表面の不均一酸化反応がどこまで進行すれば、雲凝結核として振舞うのか?』を定量的に評価する。ドーナツビーム型レーザー捕捉装置を用いて、気相中に非接触で浮遊させた黒色炭素微粒子のオゾンによる不均一酸化反応に関する研究を実施する。設備備品としてオゾン発生装置を導入し、反応チャンバー内へのオゾンガスの定量的な供給を実現する。黒色炭素微粒子表面で進行する化学反応をラマンスペクトルの変化として検出し、オゾンによる不均一酸化反応の速度論的な解析を行う。本基盤技術を駆使し、微粒子ごとに、どのような化学反応が進行するのか、また、どの湿度で水滴に変化するのかを数値として定義することで、エアロゾルを足場とした雲粒の発生過程を、気候変動予測の計算に組み込むための基礎的なデータを得る。
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