飛躍的なコンピューターの性能向上により、地球規模の気候シミュレーションの精度も向上してきた。しかしながら、エアロゾルと雲の相互作用は、今日の気候変動予測における最大の不確定要素となっている。大気中には、自然起源や人為起源の様々なエアロゾルが存在し、気象現象に大きな影響を与えている。エアロゾルは大気中を輸送される間に様々な物理・化学変化を生じるため、その化学組成や形態は極めて複雑である。そのため、微粒子集合系の平均値解析では、エアロゾルが雲の発生や気候に与える影響を正確に評価することは難しい。したがって、個々のエアロゾルを直接観測可能な分析手法の開発が強く望まれる。エアロゾルをフィルターや固体基盤の上に捕集して、その一粒の化学組成や吸湿性などを計測する手法では、固体基盤そのものが核発生の足場を提供する影響が無視できない。一方、微小水滴を空気中に非接触で浮遊させることができる光ピンセット(レーザー捕捉法)は、過飽和や過冷却などの熱力学的準安定な液体が関与する雲の発生や降雨・降雪の物理化学過程を理解するために大変有用な計測手法である。しかしながら、従来の単一集光レーザービーム型の光ピンセットは、「光を吸収する微粒子」や「形状が球形から逸脱した微粒子」を安定に捕捉できないという課題を有していた。これらの問題を克服するために、新規なレーザー捕捉法の開発が必要不可欠である。これまで固体の微結晶は形状の対称性が低く、光の放射圧のバランスを保てないため、気相中においてレーザー捕捉することができなかった。研究代表者は、複数の溶質を段階的に結晶化させることで、固体微結晶を気相中に浮遊させることができることを見出した。光ピンセットを用いて海水由来のエアロゾル(塩化ナトリウムと硝酸ナトリウムの混合物)を気相中に浮遊させたまま雲粒を発生させることに世界で初めて成功した。
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