研究課題/領域番号 |
18H02007
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
村松 康司 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (50343918)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射光 / 軟X線吸収分光 / 第一原理計算 / 炭素材料 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究では,「放射光軟X線吸収分光法と第一原理計算による炭素材料の複雑構造解析技術の開発」を目的とする。本研究では特に工業的に重要であるにもかかわらずその複雑構造解析技術が確立していないカーボンブラック,タール・ピッチ,ゴム,潤滑油/金属摩擦界面に着目し,これらの複雑構造を放射光軟X線吸収分光法(SR-SXAS: Synchrotron Radiation Soft X-ray Absorption Spectroscopy)と第一原理計算で解き明かす方法を確立する。具体的には,(1)ターゲット材料の調製,(2)放射光軟X線測定,(3)第一原理計算による理論解析,(4)解析と評価手法の提案の4ステップで実施する。 2019年度の研究実績を以下に示す。 (1)ターゲット材料の調製: ターゲット材料は予定通り関連企業および外部研究機関から調達した。カーボンブラック系材料はセキスイ化学,ダイセルから,タール・ピッチ系材料は三菱ケミカル,ゴム系材料は東洋タイヤから得た。また,研究を進める過程において,糖分子が固体中水素結合の観測に有効であることを見出した。 (2)放射光軟X線測定: 放射光測定は,計画通り本学NewSUBARUのBL10と米国放射光施設Advanced Light SourceのBL-6.3.2で複数回実施した。 (3)第一原理計算による理論解析: バンド計算ソフトCASTEPを用いて,測定した軟X線吸収スペクトルの理論解析を行った。 (4)解析と評価手法の提案: ターゲット材料に対して軟X線吸収スペクトルの形状と試料調製条件との相関を調べ,その相関の妥当性を理論解析から裏付ける。今期は,(1)の材料に対して(2)の放射光軟X線測定を行い,多くのデータを蓄積した。さらに,軟X線吸収分光法を用いれば,固体中水素結合を検出できる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記6. 研究実績の概要で述べたように,概ね,計画通りに研究を実施した。得られた測定データは以下のように整理できる。 (a) カーボンブラック系材料: 工業カーボンブラックの熱処理変化を観察し,粒子被覆カーボン層の識別技術を提案し,これらの成果化(国内学会)を行った。 (b) タール・ピッチ系材料: タール・ピッチの典型的な軟X線吸収スペクトルの取得,タール・ピッチの熱処理変化の観察,タール・ピッチの識別技術の確立を行い,これら成果化(国際会議,国内学会)を行った。 (c) ゴム系材料: カーボンブラック添加イソプレンにおけるカーボンブラック添加効果を明らかにし,これらの成果化(国内学会)を行った。 (d) その他: 糖分子における水素結合が軟X線吸収スペクトルに現れること気づき,炭素材料の分析に展開できる見通しを得た。さらに,前年度に引き続き,黒鉛系炭素材料に含まれるヘテロ環構造の軟X線吸収スペクトルの帰属,透過法による炭素超薄膜の軟X線吸収測定,絶縁性媒体に吸着した炭素材料の全電子収量測定をおこない,適宜成果(論文,国際会議,国内学会)を行った。 以上のデータについて, 7件の論文発表,4件の国際会議発表,28件の国内学会発表を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も継続して(1)ターゲット材料の調製,(2)放射光軟X線測定,(3)第一原理計算による理論解析,(4)解析と評価手法の提案の4ステップを実施する。ただし,新型コロナウイルスの影響で国内外の放射光施設が運転停止しているため(2020年6月上旬現在),(1)と(2)の実施は困難が考えられる。よって今期は(3)と(4)を重点的に実施する。 (1) ターゲット材料の調製はについては,カーボンブラック系材料,タール・ピッチ系材料に関連した高分子化合物を探索する。さらに,糖分子における水素結合の測定に見通しがえられたことから,水素結合を含有する炭素材料もターゲットとする。 (2) 放射光測定は,新型コロナウイルスの影響のため実施回数が例年に比べて大幅に減少するが,利用機会があれば,適宜実施する。 (3)第一原理計算による理論解析は,測定した軟X線吸収スペクトルの解釈のために,加速させて実施する。さらに,今後,測定予定材料の軟X線吸収スペクトルを理論予測する。 (4) 解析と評価手法の提案については, これまでに得たタール・ピッチ系材料の軟X線吸収スペクトルの知見を発展させ,理論解析結果をふまえたタール・ピッチの識別技術を確立する。また,固体中水素結合の分析技術を提案する。
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