本研究では,「放射光軟X線吸収分光法と第一原理計算による炭素材料の複雑構造解析技術の開発」を目的とする。本研究では特に工業的に重要であるにもかかわらずその複雑構造解析技術が確立していないカーボンブラック,タール・ピッチ,ゴム,潤滑油/金属摩擦界面に着目し,これらの複雑構造を放射光軟X線吸収分光法(SR-SXAS: Synchrotron Radiation Soft X-ray Absorption Spectroscopy)と第一原理計算で解き明かす方法を確立する。具体的には,(1)ターゲット材料の調製,(2)放射光軟X線測定,(3)第一原理計算による理論解析,(4)解析と評価手法の提案の4ステップで実施する。 本年度の研究実績を次に示す。(1)ターゲット材料の調製: ターゲット材料は関連企業等から調達した。カーボンブラック系材料はセキスイ化学,ダイセルから,タール・ピッチ系材料は三菱ケミカル,ゴム系材料は東洋タイヤから得た。また,当研究室独自の対象材料として,砂糖,ゴム関連有機化合物,有機薄膜等を調製した。(2)放射光軟X線測定: コロナ禍の影響により渡米することができなかったため,米国放射光施設Advanced Light Sourceでの測定はできなかった。本学NewSUBARUのBL10での測定は可能な限り実施した。(3)第一原理計算による理論解析: バンド計算ソフトCASTEPにくわえて分子動力学計算ソフトForciteを導入し,測定した軟X線吸収スペクトルの理論解析を行った。(4)解析と評価手法の提案: 今期は,(1)の材料に対して(2)の放射光軟X線測定を行い解析した。特に,水素結合のような分子間相互作用が見込まれる分子については,分子動力学計算で複数分子からなる構造モデルを求め,このモデルの理論計算を行うと高精度に解析ができることを示した。
|