クリーンな水素生成技術として、太陽光の主成分である400 nm以上の可視光を吸収して、水を効率良く分解する光触媒反応系の構築が望まれている。光触媒高活性化に関するアプローチの一つとして、ヘテロ接合の形成がある。しかし、ヘテロ接合の構築がその界面でのみ作用するため、電子-正孔対の分離の促進は限定的である。そこで本研究では、炭素と窒素のみで構成されているグラファイト状窒化炭素光触媒のトリアジン環平面内に、直接異種構造を導入する分子内修飾法を確立することを目的としている。さらに非金属ドーピングという構造修飾と組み合わせることにより、新たな可視光応答活性の発現をねらい、水素生成に対する実用レベルの光触媒の構築を目指している。 本年度は昨年度までに最適化してきたリン担持芳香環含有窒化炭素の構造的・工学的特徴を明らかにした。芳香環やリンのドープは、窒化炭素のXRDパターンに大きな変化はなかったことから、ドープにより基本骨格に変化がないことが明らかとなった。しかし、ピークがブロードし、強度が減少していることから、重合度が減少し、結晶度が減少したと判断できた。P2pXPSナロースペクトルにおいて、P-N結合を示すピークを確認できた。このことはFT-IRからも確認することができた。したがって、窒化炭素構造のCがPに置換されたことが明らかとなった。また、C1sXPSナロースペクトルからトリアジン環が減少し、芳香環が組み込まれたことが確認できた。PLスペクトルを測定したところ、リン担持芳香環含有窒化炭素が示すピークがレッドシフトを示し、さらにピーク強度が小さくなっていることが分かった。このことから、電子―正孔対の再結合が抑制されることがわかった。また、時間分解PLスペクトルからリン担持芳香環含有窒化炭素が示す励起子の平均寿命は長く、光触媒反応に効率よく寄与できることが明らかとなった。
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