研究課題/領域番号 |
18H02019
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 英人 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (70706704)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / 縮環π共役 / ラダー高分子 / 縮環π拡張重合 / APEX / リビング重合 / 直接アリール化重合 |
研究実績の概要 |
本年度は、グラフェンナノリボン(GNR)のようにモノマーユニット同士が二つ以上の結合でつなりかつπ共役高分子となる「縮環π共役高分子」の新規合成法の確立を目指して研究を開始した。その結果、これまで開発してきた縮環π拡張反応(Annulative π-Extension: APEX反応)を重合反応へと展開することに成功し、連続的なAPEX反応、すなわちAPEX重合法の確立に至った。本重合反応は、開始剤としてAPEX反応に活性なフェナントレンやジフェニルアセチレンを用い、ベンゾナフトシロールをモノマーとし、パラジウム錯体、トリフルオロ酢酸銀、オルトクロラニル存在化で加熱攪拌することによって進行することがわかった。反応初期段階では開始剤とモノマーが1:1でAPEX反応を起こすことによってまずより大きな多感芳香族炭化水素が生成し、この生成物の末端に二重結合性に富んだK領域が出現することによって、次のAPEX反応が進行し、これらが繰り返されることによって位置選択的に重合が進行することがわかった。生成物はfjord領域([5]ヘリセン構造)を繰り返しつポリベンゾフェナセンであり、これまで合成されたことのないグラフェンナノリボンであった。さらに本重合反応はリビング性を帯びることがわかり、炭素水素結合直接アリール化と縮環を伴いながら重合伸長する全く新しい形式の重合反応であることがわかった。リビング縮環π拡張重合(リビングAPEX重合)と名付けられた本重合反応では、開始剤とモノマーの混合比を変えるだけで分子量3000-150000 g/mol程度のfjord型GNRを分散度1.04程度に保ったまま合成できることがわかった。また、fjord型GNRを脱水素環化反応条件に伏すことで、N = 8 armchair型GNRへと変換できることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高分子化学、有機合成化学、材料化学などの様々な分野にとって革新的となる新規重合反応法である「リビング縮環π拡張重合法」を開発し、待望であった長さ・幅・構造を精密に制御したグラフェンナノリボンの合成を確立した。本重合反応は、今後の本研究課題の核心をなすものであり、様々な縮環π共役高分子の精密合成と構造制御を達成する強力な鍵となりうる。そのため、本年度の研究計画は当初の計画以上に進展しているものとみなした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発したリビング縮環π拡張重合法をさらに発展させ、様々な幅や構造をもつグラフェンナノリボンの精密合成やブロック共重合などを試みる。またその他縮環π拡張重合法の開発にも取り組み、未だかつて合成されたことのない新奇縮環π共役高分子の合成に挑戦する。合成した高分子は適宜デバイス化や電荷移動度の測定、自己組織化能の評価なども行い、縮環π共役高分子がもつ機能などについての調査も開始する。
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