研究課題/領域番号 |
18H02024
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相良 剛光 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60767292)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メカノフォア / 超分子 / シクロファン / 刺激応答性発光材料 / ポリウレタン |
研究実績の概要 |
近年、機械的刺激により共有結合が切断され、吸収・蛍光特性が変化する“メカノフォア”と呼ばれる分子骨格が盛んに研究されている。しかし、従来の共有結合切断型のメカノフォアは、可逆性に乏しいなどの用途によっては問題となる課題を抱えている。申請者らは最近、これらの問題を克服した「ロタキサン型超分子メカノフォア」を開発した。本研究では、より洗練された分子構造を持つ「シクロファン型超分子メカノフォア」を創製することを目的としている。蛍光団と消光団を一つづつ持つシクロファン型メカノフォアを高分子に共有結合を介して導入し、機械的刺激に応じて生じる発光特性変化を精査すると共に、新しい機械的刺激応答性発光材料の創製を目指す。 当該年度は前年度に見いだされた溶液中で完全に消光される蛍光団と消光団を含むシクロファンで得られた知見を基に、ポリウレタン鎖を導入するための水酸基を二つ導入したシクロファンの合成ルートを確立した。このシクロファンに導入された蛍光団からの蛍光は溶液中ではほぼ完全に消光されることが明らかとなり、重付加反応によりポリウレタン主鎖に導入することに成功した。得られたポリウレタンフィルムからは、予想に反して蛍光団と消光団からのエキシプレックス形成に伴う蛍光が観察された。このフィルムを延伸するとモノマーの蛍光強度が大きく上昇しすることも分かった。さらに、延伸したフィルムを元の状態に戻す事で元のエキシプレックス蛍光が支配的な蛍光特性に戻すことができる。この蛍光色変化は、フィルムの延伸に伴い何回でも繰り返し観察することができることも明らかとなった。今後は得られた蛍光特性変化を精査し、他の蛍光団を導入したシクロファン型超分子メカノフォアを合成し、分子デザインの汎用性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はようやく、蛍光団と消光団を一つづつ導入したシクロファン型超分子メカノフォアの分子骨格の合成ルートを確立することに成功した。溶液中では蛍光団からの蛍光は観察されなかったが、ポリウレタンフィルムを作製した際にはフィルムからエキシプレックス蛍光が観察された。フィルムを延伸するとモノマー発光成分の強度が大幅に上昇するため、本メカノフォアはエキシプレックス⇔モノマー発光を可逆的スイッチする全く新しいタイプの超分子メカノフォアであることが明らかとなった。当初計画していたモノマー発光の完全On/Offスイッチではないが、新しいタイプのレシオメトリックな蛍光色変化を示す超分子メカノフォアを開発したといえる。この蛍光色変化はエキシマ-蛍光を示す蛍光団を二つ導入したシクロファンをポリウレタンに導入して延伸した際の蛍光色変化よりもはるかに大きいことが判明し、実用性は大きく向上したといえる。そのため、本年度の進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られたエキシプレックス⇔モノマー発光を力により可逆スイッチする超分子メカノフォアの力に対する発光特性変化を多角的に解析する。まずは引張試験機と小型蛍光計を同時に用いて、メカノフォアを導入したポリウレタンフィルムが延伸率の上昇と共に蛍光特性をどのように変化させるかを明らかとする。また、蛍光寿命測定を延伸前後で行い、モノマー蛍光の寿命が変化するかも明らかとする。また、ポリマーの分子量や熱物性や機械的特性などの基本物性も各種特性により明らかとし、論文としてまとめる予定である。 さらに、蛍光団や消光団を変更し、ポリマーに導入した後に延伸により蛍光のOn/Offスイッチを示すシクロファン型超分子メカノフォアの分子構造を引き続き探索する。
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