研究課題/領域番号 |
18H02028
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡辺 敏行 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10210923)
|
研究分担者 |
戸谷 健朗 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (50397014)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アゾベンゼン / 高分子ゲル / ポリウレア / 光応答性 / アクチュエーター |
研究実績の概要 |
本研究では四官能性アミンの中心部にアゾベンゼンを導入した架橋剤N,N-Bis(3,5-diaminobenzoyl)-4,4’-diaminoazobenzene (BDA-Azo)と、1,4-Phenylene diisocyanate (PDI)との末端架橋法により尿素結合を有する三次元ネットワークを構築した。このポリウレアゲル(PUゲル)の光応答性を測定した。ゲルロッドが真っ直ぐ垂れた状態を0°とし、光を照射してからゲルロッドの一端が90°まで持ち上がるのに要する時間を測定した。PUゲルロッドは青色光の照射により90°以上まで迅速に屈曲し、緑色光の照射により徐々に棒状に戻り、可逆的屈曲を示した。屈曲時間の平均は3.3秒であった。この可逆的屈曲挙動を光照射により数百回以上繰り返しても、応答速度は変化しなかった。PUゲルはBDA-Azo/Pyromellitic dianhydrideを反応させて得たポリアミド酸ゲル(PAAゲル)に比べ屈曲速度が20%以上向上する結果となった。また、PAAゲルはレーザー照射位置付近が屈曲しているのに対し、PUゲルはレーザー照射位置より上部も屈曲していることがわかった。またPUゲルは広い範囲で緩やかに屈曲しており、加えて全体で90°以上屈曲している。そのため棒状への回復には緑色光を屈曲している部分全てに照射する必要がある。PUゲルの導入により、ネットワークに導入されるアゾベンゼンのうち、光応答性に有効な網目の割合が約66%から90%へと大幅に上昇した。 PAAゲルの光応答性はアミド酸の加水分解により、3日で失われてしまったが、本研究では、ネットワーク中にアミド酸に代わって尿素基を導入することにより、加水分解を抑制し、1年間以上に渡って安定な光応答性を示す高分子ゲルの作成に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下の点を明らかにする。 実験計画1.高速光応答性アゾベンゼンの分子設計指針の確立 特に高速光応答を可能にする均一な網目構造を得るためのアゾベンゼンの分子設計指針の確立 実験計画2.光異性化をトリガーとするドミノ倒し的アゾベンゼンの異性化の証明 実験計画3.光酸発生剤を利用したネットワーク型フォトメカニカル材料のパターンニングおよびフォトメカニカル効果を利用したナノアクチュエーターの作製 これに対応して、以下の実験方法でアプローチを行っている。 実験方法 1.高速光応答性アゾベンゼンの分子設計指針の確立 アゾベンゼンを含む、4官能性分子を設計し、この分子と2官能性分子を反応させたネットワーク高分子を合成することで、高速光応答性が実現できることが証明された。また、耐久性の高いポリイミドやポリウレアに変換することにより、耐熱性や経時安定性に優れた材料が得られた。 2. 光異性化をトリガーとしたドミノ倒し的アゾベンゼンの異性化の証明 ラマン分光により、トランス体とシス体の異性化率の割合を測定しようと試みているが、ネットワーク高分子中に含有されている溶媒のシグナルが強いため、アゾベンゼンのシグナルが隠れてしまい、確認できていない。より感度の高い測定法の利用を検討している。ドミノ倒し的運動は、高分子ゲル中に導入した蛍光ビーズが光照射された部分と照射されていない部分で、どのように動くかを解析した結果、光照射部位の分子鎖の変形が、光照射部位以外にも伝搬していることが判明した。 3. 光酸発生剤を利用したネットワーク型フォトメカニカル材料のパターンニングおよびフォトメカニカル効果を利用したナノアクチュエーターの作製 予備実験を行い、アゾベンゼンを含む分子に導入したBoc基の脱保護を試みた。しかし、現在用いている光酸発生剤ではうまくいっていない。光酸発生剤の強さを変えて実験を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
光異性化をトリガーとするドミノ倒し的アゾベンゼンの異性化の証明 現在までの所、Coherent Anti-Stokes Raman Scattering (CARS)顕微鏡を利用してアゾベンゼンのトランス体とシス体を検知しようとしてきた。しかし、現在の系はネットワーク高分子中に溶媒を95%ほど含むため、アゾベンゼンのシグナルが弱く検知できない。そこでより感度の高い、ラマン分光法にて解析を行う。 また、ポリウレアゲルを膨潤させ、かつラマン分光の際に計測の邪魔にならないイオン液体を利用することにより、アゾベンゼンのドミノ倒し運動を分光学的に解明する。 また、ネットワーク構造のマクロな動きは、ネットワーク高分子の網目よりもかなり大きな直径を有する蛍光ビーズをドープし、その動きをトレースすることで、解析する。 光酸発生剤を利用したネットワーク型フォトメカニカル材料のパターンニングおよびフォトメカニカル効果を利用したナノアクチュエーターの作製 予備的な実験を行い、アゾベンゼンを含む分子に導入したBoc基の脱保護を試みた。しかし、現在用いている光酸発生剤ではうまくいっていない。光酸発生剤としてはものスルホニウム塩を利用しているが、そのカウンターイオンを変え、発生する酸の強さを変えて実験を行う。Boc基の脱離は主に薄膜クロマトグラフィーによる目視にて行っていたが、これを液体クロマトグラフィーに変更して定量的な解析を行う。
|