今後の研究の推進方策 |
昨年度に共重合体を用いて薄膜形成を検討する。これまでの経験から溶液キャスト法が平滑で均質な薄膜形成に好適なことが分かっているので、極性有機溶媒を用いて透薄膜が得られる条件を見出す。また、超薄膜(膜厚1μm以下)の作製にはスピンコート法を、膜物性改善のためにはガラス転移温度以上でのホットプレス法を適宜適用する。得られた薄膜のモルフォロジーは、結晶構造(XRD)と親水クラスター径(SAXS)、親・疎水相分離構造(TEM, STEM)を解析し、芳香族骨格や共重合組成との相関を解析する。導電率は、陽イオンに関してはH+, V4+, V5+、陰イオンに関してはOH-, Cl-, SO42-に変化させながら測定し、それぞれのシングルイオン導電率を水中および気相中で湿度・温度を制御した条件で測定する。研究代表者らが独自に組み上げた環境制御型原子間力顕微鏡を用いて、温度、湿度、および電位を制御した条件における薄膜界面の形状像とイオン電流像を定量的に可視化し、バルク構造やイオン導電率との相関を明らかにする。水素、酸素、水蒸気の透過率は既設の装置を用いて測定し、緩和時間の算出から拡散係数と溶解係数を分離して、結晶化度や親・疎水相分離構造との関連を調べる。化学安定性は、酸化雰囲気(過酸化水素水溶液、V5+含有水溶液)と還元雰囲気(水素雰囲気、V2+含有水溶液)、強酸および強アルカリ中で一定時間処理した後に構造と物性の変化を解析する。これらの結果を三元共重合体の主鎖構造やその組成、イオン官能基の種類、キンケフェニレン構造の導入効果の観点から統計的に整理し、薄膜の高次構造や各種物質移動を制御できる分子構造要件を明らかにする。次年度以降に検討する界面設計やエネルギーデバイス展開のため、これまで困難とされてきた安定性とイオン導電率のトレードオフ関係を打破できるイオニクス設計指針を提案する。
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