研究課題/領域番号 |
18H02041
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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研究分担者 |
伏見 公志 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20271645)
中西 貴之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (30609855)
北川 裕一 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任講師 (90740093)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 配位高分子 / 発光 / 希土類 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子上に固定化された希土類配位高分子に関して、2019年度は新規なナノ粒子上への検討を行った。具体的には、研究計画にある「シリカナノ粒子」の粒子表面上への固定化を行った。このシリカナノ粒子はオルトケイ酸テトラエチルとアンモニア水による反応によって合成した。得られたナノ粒子を光散乱測定装置によって測定したところ、平均粒径74nmの単分散粒子であることがわかった。透過型電子顕微鏡による観察では、球状のナノ粒子が合成できていることがわかった。 次に、シリカナノ粒子(SiO2)の表面に配位子を固定するため、トリエチルシリル基がついたホスフィンオキシド配位子の合成を行った。まず、メチル基がついたトリフェニルホスフィンオキシドを参加してカルボン酸に変換し、塩化チオニルによってカルボン酸を酸クロライドにしてから、トリエチルシリル基を含むアミン誘導体と反応を行い、トリエチルシリル導入配位子を合成した。得られた配位子とユウロピウム(Eu)錯体との錯化反応によりトリエチルシリル導入された希土類錯体を合成した。合成されたEu(III)錯体はSiO2ナノ粒子表面に良好に吸着できることがNMRおよびIRから確認された。 得られたSiO2-Eu錯体とSiO2-希土類錯体は強い赤色発光を示し、その発光量子効率は向上し、発光寿命は長寿命化することが明らかとなった。発放射速度および無放射速度を見積もったところ、通常の希土類錯体に比べて放射速度の増大と無放射速度の減少が明らかになった。以上により、Eu(III)錯体をSiO2ナノ粒子表面に固定化することに成功し、ナノ粒子表面に固定化されたEu(III)錯体は発光量子効率が向上することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では CaSナノ粒子表面へのユウロピウム錯体の固定化に成功した。今回(2年目)は新しくシリカナノ粒子表面上にユウロピウム錯体を固定化することに成功した。このことから本研究はおおむね順調に進んでいる。 また、今回合成されたSiO2ナノ粒子上のユウロピウム錯体の光物理特性を計測したところ、発光寿命の長寿命化と発光量子効率の向上が初めて観察された。つまり、ナノ粒子表面へのユウロピウム錯体固定化は、ユウロピウム錯体単独よりも光機能が向上することを今回初めて明らかにすることができた。 今回の光物理科学計測においてもっとも興味深い点はユウロピウム錯体の無放射失活速度定数が減少している点である。これは無機ナノ粒子表面に固定化されることで、希土類錯体の分子振動構造が変化していることに起因していると考えられる。また、放射速度定数が増大していることから、ナノ粒子表面上にユウロピウム錯体が密集して配位構造が非対称化している可能性が高い。 以上のことから、新規物質(シリカナノ粒子表面上に固定化されたユウロピウム錯体)の合成、および新しい光物理過程の観察(放射速度定数の増大と無放射速度定数の減少)を2019年度に達成することができた。このことから、本研究はおおむね計画通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、得られたシリカナノ粒子表面上に固定化されたユウロピウム錯体を配位高分子へと拡張を行う。具体的には、ベンゼンのパラ位にホスフィンオキシドが結合した二座型配位子を合成し、SiO2-Eu(III)錯体を分散したメタノール溶液にこの二座配位子を導入して、SiO2-Eu(III)錯体-二座配位子を合成する。このSiO2-Eu(III)錯体-二座配位子の生成はIRおよびNMRにより評価する。次に、この系にEu(III)錯体を導入し、「SiO2-Eu(III)錯体-二座配位子-Eu(III)錯体」を合成する。この操作を繰り返して行うことにより、シリカナノ粒子表面上へのEu(III)配位高分子の形成を試みる。さらに、ユウロピウムをテルビウムに変えた「SiO2-Tb(III)錯体」、「SiO2-Tb(III)錯体-二座配位子-Tb(III)錯体」およびTb/Eu混合系の「SiO2-Tb(III)錯体-二座配位子-Eu(III)錯体」も合成する。 得られた「SiO2-Tb(III)錯体」,「SiO2-Tb(III)錯体-二座配位子-Tb(III)錯体」の「SiO2-Tb(III)錯体-二座配位子-Eu(III)錯体」の発光をクライオスタットよって温度可変測定し、その測定から光増感エネルギー移動における活性化エネルギーを算出する。この解析により、ナノ粒子固定化させることによる光物理過程の特異性について評価を行う。
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