研究課題/領域番号 |
18H02044
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
森 健彦 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (60174372)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 有機半導体 / 金属錯体 / 電荷移動錯体 |
研究実績の概要 |
一般にp型有機半導体には優れたものが多いが、n型有機半導体には優れたものが少なく、特に空気中で安定に動作するn型有機半導体が強く求められている。そこで本研究では広範囲の酸化還元電位を実現できる金属錯体など、特異なπ電子系を利用した有機半導体の開発を行う。本年度は以下のような研究を実施した。 (1) フェニレンジアミンを配位子とする金属錯体がテトラテトラコンタン処理した基板上でアンバイポーラトランジスタ特性を示すことを明らかにした。従来のNi錯体に代わってPd錯体で1桁程度高性能のトランジスタ特性を実現した。メチルやフッ素置換した錯体でp型からn型への連続的な特性変化を実現した。 (2) サリチルアルデヒド分子を含むsalen金属錯体のp型トランジスタ特性を明らかにした。チオsalen錯体でアンバイポーラトランジスタ特性を観測した。 (3) 交互積層型電荷移動錯体はn型トランジスタ特性のみを示すものが多いが、その機構を明らかにした。ドナーHOMOには水平の節があるため、TCNQなどのアクセプターLUMOと直交し、HOMO・LUMO間のトランスファーはほぼゼロとなる。その代わりドナーHOMO-1はアクセプターLUMOと大きなトランスファーをもち、電子はドナーHOMO-1の混成によって流れる。アクセプターHOMOや、その他の分子軌道はエネルギー的にドナーHOMOから離れているため、ホールが流れることは難しい。このような状況はきわめて一般的に成り立つが、ペリレンのような幅広分子を使った場合や、ドナーが回転している場合、ドナーHOMOが水平の節をもたない場合やDCNQIのように対称性が低下した場合にはHOMO・LUMO間の直交性が失われ、アンバイポーラトランジスタ特性が現れることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 金属錯体を含む有機トランジスタ材料としていくつかの系がトランジスタ特性を示すことが明らかとなった。今後このような物質群をさらに探求する。 (2) 交互積層型電荷移動錯体のトランジスタ特性を支配する一般則が明らかとなった。これを出発点として、交互積層型電荷移動錯体のトランジスタを展開することが可能となった。 (3) ビロダニン型分子も交互積層型電荷移動錯体をつくりトランジスタ特性を示すことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) サリチルアルデヒド分子を含むsalen金属錯体のトランジスタ特性の特性改善、およびイオウ置換salen錯体のトランジスタ特性について検討する。salen錯体を含んだ高分子材料の開発を試みる。 (2) 交互積層型電荷移動錯体のうち、ドナーとアクセプターが同じ骨格をもち、HOMO・LUMOが同じ形をした組み合わせや、ドナーHOMOとアクセプターLUMOが同じ形をした系について解明する。電子伝導を強く示さないアクセプター分子として、LUMOが水平の節をもった分子の電荷移動錯体を開発し、そのトランジスタ特性について検討する。中性・イオン性転移を伴った電荷移動錯体のトランジスタ特性について検討する。 (3) ビロダニン型分子は強いアクセプター性を示し、大気安定な有機トランジスタとなる。本年度は非対称ビロダニン、骨格拡張型ビロダニン分子の開発を行う。無置換ビロダニン分子の合成を試み、そのトランジスタ特性の評価を行う。ビロダニン系分子をアクセプターとする電荷移動錯体を開発し、トランジスタ特性の評価を行う。
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