研究課題
一般にp型有機半導体には優れたものが多いが、n型有機半導体には優れたものが少なく、特に空気中で安定に動作するn型有機半導体が強く求められている。そこで本研究では広範囲の酸化還元電位を実現できる金属錯体など、特異なπ電子系を利用した有機半導体の開発を行う。本年度は以下のような研究を実施した。(1) 拡張インジゴ骨格を持つ新たな分子を開発し、アンバイポーラトランジスタとして動作することを確認した。インジゴは溶液中や固体中では水素結合によって吸収が長波長シフトして特有の深青色を呈することが知られているが、有機半導体として見た場合も水素結合によってドナー性・アクセプター性が顕著に強くなることを明らかにした。(2) 2成分系のトランジスタとして交互積層型電荷移動錯体を用いた場合、HOMOとLUMOが直交する場合には大気中でも動作するn型トランジスタ特性が発現する。新たに3環系ドナーのTCNQ錯体のトランジスタ特性を調べ、HOMOとLUMOが直交するジベンゾチオフェン、ジチエノチオフェンでn型特性を見いだした。一方軌道が直交しないにもかかわらずフルオレン、カルバゾールではn型特性のみが見られ、ジヘキシルクォーターチオフェン、フェノチアジンではアンバイポーラ特性が見られることから、ホール伝導が見られるためには軌道が直交しないだけでなく、HOMOレベルが-5.3 eV以上にあることが必要であるとの結論に達した。(3) 分離積層型構造をもつジアミノペリレンのTCNQ錯体において、イオン性であるため伝導性が高いにもかかわらず、バルク伝導を引くことによってアンバイポーラトランジスタ特性を得ることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
(1) インジゴ系有機トランジスタの研究を通して水素結合が有機半導体の性質に与える影響を明らかにすることができた。(2) 交互積層型電荷移動錯体のトランジスタについて、エネルギーレベルとの関連を明らかにした。(3) 比較的高伝導の分離積層型電荷移動錯体のトランジスタ特性を測定することに成功した。
(1) 最近、特性向上のため、ドープした有機半導体を用いた有機デバイスに注目が集まっている。我々は本研究において電荷移動錯体の有機トランジスタに着目し、分子軌道の対称性によってキャリア符号が大きく変わることを見出したが、本年度は軌道対称性だけでなくエネルギーレベルも考慮に入れざるを得ない系を発見した。今後これらの知見をさらに一般化して、有機デバイスにおける電荷注入と有機分子の関係を明らかにすることを目指す。(2) イオン性電荷移動錯体を用いた有機トランジスタの探索をさらに進め、高伝導と電界効果を併せ持つ有機デバイスの物理を開拓する。(3) 我々はビロダニン型分子が強いアクセプター性を示し、空気安定なn型有機トランジスタとなることを明らかにし、拡張型ビロダニン分子や非対称ビロダニン分子の合成法を開発してきた。今後はフッ素導入などによってさらに安定性を向上させたビロダニン分子の開発を進める。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
J. Mater. Chem. C
巻: 10 ページ: 2842-2852
10.1039/d1tc04305f
Phys. Chem. Chem. Phys.
巻: 34 ページ: 21972-21980
10.1039/d1cp03364f
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 90 ページ: 103703
10.7566/JPSJ.90.103703
Synth. Met.
巻: 278 ページ: 116844
10.1016/j.synthmet.2021.116844
New J. Chem.
巻: 45 ページ: 8971-8977
10.1039/d1nj01335a
https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-03245157
https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-03364488/