研究課題
溶液中で消光し、固体状態で強く発光する凝集誘起発光(AIE)色素は、生体分子分析や固体発光材料への多彩な応用が期待されている。しかし、その原理を統一的に理解して新しい分子の設計や機能の開発を行う基礎研究が不十分だった。我々が2015年に発見したAIE色素である大きくねじれたジアルキルアミノ基を持つ芳香族炭化水素類が1分子でAIE挙動を示す理想的な分子群であることを発見した。そして、実験と理論の両面からこれらの色素の発光・消光メカニズムの解明に挑戦した。AIE現象の特徴である溶液中の消光は光励起後に極めて短いスケール内で起こる内部転換(内部変換)領域で起こる。したがって、実験的手法で解析することが困難なため、発光・消光メカニズムを実証することが難しいとされてきた。研究グループは、量子化学をベースに、ポテンシャル曲面を算出し、消光が起こる際の分子の構造変化を可視化することに成功した。さらに、励起状態において大きな構造変化を起こすことが知られている蛍光色素スチルベンの二重結合のまわりを炭化水素鎖で縛った橋かけスチルベンをモデルにして、溶液中で消光する化学反応経路を持つ分子構造を理論計算により探索した。見つかった色素分子を実際に合成すると、理論計算の予測通りの機能を示した。橋かけスチルベン(n=7)は、その量子収率が溶液中で0.4%、固体状態で95%以上と、発光のオン・オフをほぼ完璧に行うことができ、サイズが小さく分析対象の形状や物性に大きな影響を与えない非侵襲性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
理論的解明では円錐交差にのみ注目していたが、フランク-コンドン励起状態も重要であることを見出すなど大きな進捗がある。また、材料展開に関しては、特許の兼ね合いがあるので、ここでは詳細は控えるが、新しい発見があった。
今回用いた設計手法は、AIE色素だけでなく、様々な発光材料の設計や光物理過程の予測・解析に役立つことがわかっている。今後の研究では、AIE色素の発光原理の確立を目指すとともに、研究計画書にあるような機能材料、応用研究を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
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