研究実績の概要 |
本研究では、従来の孤立分散系や単なる非晶性薄膜では実現できなかった発光機能を開拓し、有機半導体材料の新パラダイムの創出を目指している。 今年度は、超高速スピン変換により励起一重項・三重項状態間の熱平衡が実現可能な有機発光材料の創製に成功した。これまで、励起一重項から基底状態への放射失活により比較的短い時間しか存在しない励起状態において、異なるスピン多重度間での理想的な熱平衡状態を実現するのは困難であった。本研究で開発した発光材料は、10^8 s-1(1秒間に一億回)以上の世界最速かつ可逆的な項間交差が可能であり、励起一重項状態と励起三重項励起状態間の熱平衡モデルに従って発光することを明らかにした。常温における発光寿命は、TADF材料として極めて短い750 nsに到達し、熱平衡モデルの予測値と良い一致を示した。この短い発光寿命に由来して、本材料を用いた有機ELデバイスは、10,000 cd m-2以上の高輝度においても20%以上の高い外部EL量子効率を達成し、TADF材料の本質的課題であった高輝度時の効率低下を抑制することに成功した。 また、汎用的な含窒素芳香族のカルバゾールとホウ素を適切に組み合わせることで、青色から赤色までの幅広い波長領域において高効率かつ高色純度の発光を示す有機発光材料の開発にも成功し、狭帯域発光フルカラー有機ELを初めて実証した。これらの発光材料を用いたフルカラー有機ELが、22~32%の極めて高い外部EL量子効率を示すことも明らかにした。
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