研究課題/領域番号 |
18H02049
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嘉部 量太 九州大学, 最先端有機光エレクトロニクス研究センター, 助教 (00726490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機蓄光 / 電荷分離 / 電荷再結合 / 有機半導体 / フォトルミネッセンス |
研究実績の概要 |
蓄光材料は光照射後、長時間の発光を示すため、避難誘導灯などへ実用化されている。既存の蓄光材料は全てレアメタルを含む無機蓄光材料で構成されているのに対し、申請者は世界で初めて有機蓄光を見出した。有機蓄光システムは電子ドナーとアクセプターから構成され、室温で長時間の発光を示す。しかし既存の有機蓄光システムはドナー・アクセプター間の電荷移動遷移に基づくため、発光効率が悪く、色純度も悪いという課題が残されていた。そこで本研究では、これらを改善するため、既存の有機蓄光システムに対して少量の蛍光材料を添加した。光吸収・電荷分離・電荷再結合はこれまでと同様に電子ドナー・アクセプター間で生じるが、電荷再結合後に蛍光材料へフェルスター型エネルギー移動することで、蛍光材料から蓄光発光が得られた。蛍光材料の添加によって発光効率および色純度が改善され、発光持続時間も6倍まで向上した。 また、有機蓄光システムは薄膜では十分に柔軟であるが、厚みを増やすと柔軟性を失い、亀裂が生じるという課題も残されていた。そこで、電子アクセプターを官能基として持つポリマー材料に対し、電子ドナーを添加した有機蓄光システムを構築した。このポリマー有機蓄光システムは溶液から簡便に製膜することが可能であり、透明性と柔軟性を両立している。 これら2つのアプローチによって有機蓄光システムの効率改善・物理特性の改善が実現した。また、蓄光発光の温度依存性を測定する装置を開発したため、今後は温度依存性や過渡発光・吸収特性から蓄光発光の詳細なメカニズム解明を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は主に有機蓄光の材料開発と新発光機構の実現に注力した。既存の有機蓄光システムはドナー・アクセプター間の電荷移動遷移に基づくため、発光効率が悪く、色純度も悪いという課題が残されていた。そこで本研究では、これらを改善するため、既存の有機蓄光システムに対して少量の蛍光材料を添加した。光吸収・電荷分離・電荷再結合はこれまでと同様に電子ドナー・アクセプター間で生じるが、電荷再結合後に蛍光材料へフェルスター型エネルギー移動することで、蛍光材料から蓄光発光が得られた。蛍光材料の添加によって発光効率および色純度が改善され、発光持続時間も6倍まで向上した。 また、有機蓄光システムは薄膜では十分に柔軟であるが、厚みを増やすと柔軟性を失い、亀裂が生じるという課題も残されていた。そこで、電子アクセプターを官能基として持つポリマー材料に対し、電子ドナーを添加した有機蓄光システムを構築した。このポリマー有機蓄光システムは溶液から簡便に製膜することが可能であり、透明性と柔軟性を両立している。 これらの研究から、蛍光材料にへのフェルスターエネルギー移動による発光効率の改善が可能であること、高分子材料への展開が可能であることを見出した。これらの結果は、申請者が見出した有機蓄光は多くの電子ドナー・アクセプターに一般的に見出されることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も有機蓄光の材料開発およびメカニズム解明について研究を進めていく。材料開発については、有機蓄光の発光を制御する因子として、電子ドナー・アクセプターのHOMO準位とLUMO準位、それぞれの励起状態準位、密度、極性などが考えられる。これら材料特性と発光特性の相関を解明し、より効率的な有機蓄光システムを実現する。また有機蓄光のメカニズムには中間状態として、ラジカルカチオンとラジカルアニオン種が存在していると考えられる。これらの中間状態を過渡発光および過渡吸収測定で解明するとともに、発光の温度依存性から、電荷が保持されているトラップ状態についても解明を進める。
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