研究課題
本研究では、近年研究が活発化しているポリマーメカノケミストリーについて、高分子膜への引張応力の印加により発生する高分子鎖結合切断点の空間分布を分子レベルで可視化する新技術を確立することを目的としている。昨年度までに、結合切断点プローブの設計基盤になり得るフォトクロミック分子骨格を合成し、その有機溶媒中での光応答特性について検討したところ、この分子が光異性化反応に伴い蛍光強度を変化させることを見いだしていた。本年度は、このフォトクロミック分子骨格に対して高分子鎖を導入することを試みた。まず、合成反応をスケールアップしながら追加合成を行い、フォトクロミック分子の合成収量を増大させた。得られた分子に対して化学修飾を施すことで重合反応性官能基を導入し、さらにビニル系モノマーを用いた重合反応により、主鎖中央にフォトクロミック分子骨格が挿入された高分子化合物を合成した。この高分子は、フォトクロミック分子骨格のみの場合と同様に、有機溶媒中において光異性化反応と蛍光強度変化を示した。高分子鎖が導入されても、フォトクロミック分子骨格の光応答特性が損なわれないことが分かった。また、この高分子の溶液に対して超音波照射を行い、その際の吸収・蛍光スペクトル変化を観測することで、高分子に対する機械的刺激によるフォトクロミック分子の異性化反応の進行について検討した。超音波照射によりスペクトルが変化する兆候が観測されているが、機械的刺激による異性化反応の進行については今後詳細に検討する必要がある。
3: やや遅れている
当初の計画では、2年目(本年度)までに、有機溶媒中での高分子の超音波応答挙動を評価することで、結合切断点プローブの有効性を実証したいと考えていた。フォトクロミック分子骨格を含む高分子を合成することができ、有機溶媒中での超音波応答挙動の評価に着手したが、プローブとしての有効性を十分に確認するには至っていない。よって、現在までの進捗状況としては「やや遅れている」と評価した。
合成した高分子の溶液に対して超音波を照射し、吸収・蛍光スペクトルの変化に加えて、NMRスペクトルの変化や、GPCにおける分子量の変化を観測することで、異性化反応の進行について検討する。溶液実験により結合切断点プローブの有効性が示されれば、合成した高分子を用いて膜を作成し、高分子膜に対して引張応力を印加した際の応答挙動を観測する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Angewandte Chemie International Edition
巻: 58 ページ: 13308-13312
10.1002/anie.201907574
Nature Communications
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41467-019-11885-4
https://www2.rikkyo.ac.jp/web/m-morimoto/index.html