有機 EL 素子(OLED)は,次世代のディスプレイとして期待されているが,エネルギー変換効率やコスト面での課題を残している。そこで近年,100% 近い内部量子効率(IQE)が可能な熱活性型遅延蛍光(TADF)材料の開発が盛んに行われている。しかし,TADF材料は,幅広な発光スペクトルを与えるために,実用の際は,光学フィルターにより余分なスペクトル領域をカットして色純度を向上させる必要がある。その結果,ディスプレイとしてのエネルギー変換効率は理論限界値の半分以下に留まり,消費電力の増加と素子寿命の低下を招いている。これに対し我々は,ホウ素と窒素の「多重共鳴効果」により,励起一重項状態と励起三重項状態のエネルギー差の縮小と励起状態における構造変化の抑制に成功し,最大 IQE が 100% に達しながら,スペクトル半値幅が 25-30 nm と色純度に優れた青色発光を示すTADF材料(DABNA)を開発している。この研究成果の下,1年目は,高い逆項間交差速度を示す新たな青色TADF 材料(new-DABNA)を開発した。new-DABNAを用いたOLEDは,実用輝度において30%を超えるEQEを示すことに加えて,量子ドットなどの無機発光材料に匹敵する高色純度(半値幅15-20 nm)の青色発光を示した。2年目は,アシストドーパントの利用や周辺材料の最適化により,素子寿命を大幅に改善することに成功した。3年目は,「多重共鳴効果」を用いた分子設計の下,新たな高色純度緑色TADF 材料の開発に成功した。一連の材料を用いたOLEDは,エネルギー変換効率と色純度に優れており,分子構造と素子構造の最適化により耐久性の向上させることで,実用が期待できる。
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