研究課題/領域番号 |
18H02053
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
須藤 祐司 東北大学, 工学研究科, 教授 (80375196)
|
研究分担者 |
齊藤 雄太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (50738052)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 相変化材料 / 相変化メモリ / アモルファス / 結晶 / 結晶化 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究では、Cr2Ge2Te6(CrGT)をはじめとするd電子系相変化材料の相変化機構を解明を目的とし以下の知見を得た。 (1)CrGTの相転移に伴う密度及び光学特性変化:アモルファス/結晶相変化に伴う密度変化と光学反射率変化の関係を調査した。その結果、基本的には、従来材料と同様に相変化に伴う密度変化が小さい組成薄膜ほど光学反射率が小さい事が分かった。一方で、380℃まで加熱された薄膜では、従来の相変化薄膜とは異なり、負の密度変化(相変化に伴う密度が減少)を呈するにもかかわらず光学反射率が増加した。吸収係数の測定から、380℃加熱薄膜では電子の非局在化が生じていないことが示唆された。光学定数測定の結果、その特異な挙動は、相変態に伴って屈折率が大きく増加する事に起因している事が明らかとなった。 (2)CrGTの相転移メカニズム:電気抵抗増加の観点から、その相転移メカニズムの解明を試みた。放射光を用いた光電子分光実験より、結晶相のフェルミレベルにおける状態密度は温度上昇と共に減少し、同時に、そのフェルミレベルはバンドギャップの中央へとシフトするため、電気抵抗は増大する事が分かった。更に、局所構造解析の結果、アモルファス及び結晶相中には、Crナノクラスターが存在する事が分かった。このCrナノクラスターの存在は、同時にCr空孔の存在を意味する。解析の結果、このCrナノクラスターは温度上昇と共に減少し、即ち、Cr空孔が減少する事でホールキャリアが減少するため電気伝導が低くなることが示唆された。 (3)新材料の提案:密度と光学反射率の関係から新しい相変化材料の提案を行った。また、MnTeにおいて多形転移に伴い大きな電気抵抗変化及び反射率変化が可逆的に得られる事を見出した。MnTe多形体ではアモルファス相への転移を必要としないため、後続かつ省エネルギー動作の相変化メモリの創成が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、CrGTの相転移に伴う密度変化や反射率変化、また、電気抵抗変化がどのような相転移メカニズムによって引き起こされるのかについて明らかにした。特に、それら特異な挙動は、Crナノクラスターの存在がキーであり、その生成・消滅が重要な役割を果たしている事が分かってきた。このような遷移金属元素のクラスターは、Cu2GeTe3相変化材料のアモルファス相のシミュレーション実験においても示唆されており、遷移金属含有カルコゲナイドの一つの大きな特徴を示していると考えられる。また、遷移金属含有カルコゲナイドの小さな反射率変化及び小さな密度変化といった特徴を基に、新相変化材料の設計指針の提案も行った。その観点からも、CrGTは次世代のアモルファス/結晶相変化型の相変化材料として極めて有望である事が再確認された。また、CrGTを相変化メモリ:PCRAMとして利用するには、CrGTに適合するセレクタ層の創成は必要であるが、アモルファス相と結晶相の両相がp型の半導体であるCrGTの特徴を生かした、酸化物/CrGT積層型のメモリ・セレクタハイブリッド型メモリを提案した。更に、全く新しい相変化材料として、MnTe二元系遷移金属カルコゲナイドが、アモルファス相を介さない結晶多形転移により大きな物性変化を示す事を世界に先駆けて見出した。特に、この多形転移は、原子の拡散を要さない変位型相転移により生じる事を透過電子顕微鏡観察を通して明らかにした。この結晶多形転移型の遷移金属カルコゲナイドは、超高速かつ超省エネルギー動作を可能とする相変化型デバイスの新材料として期待される。以上のように、当初の計画通り、d電子系相変化材料の相転移メカニズムを解明すると共に、本年度では全く新しい結晶多形転移型の相変化材料を見出すことに成功しており、当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、特に、CrGTを用いた相変化メモリデバイスに関する実験を進め、その実用へのメリット及びデメリットを炙り出す。また、窒素や酸素といった反応性ガスによるドープを試み、アモルファス相の熱的安定性の更なる改善や動作速度の向上、また、電極材料の最適化による動作エネルギーの低減を試みる。更に、CrGTでは、アモルファス及び結晶相共にCrナノクラスターの存在が明らかとなったが、これら特徴がアモルファス及び結晶相中の電気抵抗ドリフト現象(材料をある温度で等温保持した時、電気抵抗が徐々に変化してしまう現象)に及ぼす影響を調査する。また、新たに見出した結晶多形転移型の相変化材料について、電気抵抗の温度依存性や光電子分光測定より、その伝導機構を明らかにすると共に、可逆的な多形転移の発生メカニズムについて透過電子顕微鏡等を用いた構造解析から明らかにする。同時に、メモリデバイスを作製し、結晶多形転移型材料を用いた相変化デバイス応用の課題を炙り出す。
|