研究課題/領域番号 |
18H02057
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
藤井 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (10222259)
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研究分担者 |
池田 直 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (00222894)
狩野 旬 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50375408)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 希土類鉄酸化物 / エピタキシャル多層膜 / 磁気交換結合 / マルチフェロイックス / スパッタ法 |
研究実績の概要 |
希土類鉄酸化物 RFe2O4(R:希土類 Yb,La,Yなど) は,三角格子上のFe2+/Fe3+の幾何学的フラストレーションに起因したユニークな電荷秩序構造を持ち,電子強誘電性とフェリ磁性を併せ持つマルチフェロイック材料として近年注目を浴びている。しかもRFe2O4のキュリー温度は約250 Kと高く,室温マルチフェロイックスの実現へ向けて期待される材料の一つである。そのため元素置換をはじめとする様々な手法でRFe2O4の磁気転移温度を上昇させる試みが行われているが,未だ成功に至っていない。近年,我々はYbFe2O4(001)薄膜がFe3O4(111)上に結晶性良くエピタキシャル成長することを見出し,薄膜においてもバルクと同様の電荷秩序構造が存在することを報告した。そこで平成30年度の研究においては,YbFe2O4層をFe3O4層でサンドイッチした三層膜を作製することに挑戦し,層間に働く磁気的交換結合によってYbFe2O4層の磁気転移温度を制御することを試みた。その結果、YbFe2O4層とFe3O4層が交互に積層したエピタキシャル多層膜の作製に成功するとともに,多層膜作製の過程において,2通りの配向関係がYbFe2O4層とFe3O4層の間には存在することを見出した。すなわち,YbFe2O4層の上下でFe3O4層との配向関係が異なっており,下層側はYbFe2O4[110](001)//Fe3O4[11-2](111),上層側はFe3O4[1-10](111)//YbFe2O4[110](001)の配向関係にあった。また,得られたエピタキシャル三層膜について磁化測定を実施したところ,単層膜では約220Kであった磁気転移温度が,三層膜では約270Kと大きく上昇している可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、サファイア単結晶基板上にYbFe2O4/Fe3O4エピタキシャル多層膜の作製を行うことに成功した。また、YbFe2O4をFe3O4で挟んだサンドイッチ構造を実現することで、予想通り、YbFe2O4の磁気転移温度が上昇する傾向を捉えることに成功したため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・スパッタ法によるYbFe2O4/Fe3O4多層膜の作製: 本年度の研究において、YbFe2O4(001)とFe3O4(111)は互いにエピタキシャル成長することを確認しており、Fe3O4/YbFe2O4/Fe3O4三層膜、四層膜、五層膜の作製にも成功した。そこで次年度は、各層の積層回数をさらに増加させるとともに、さまざまな積層周期を持たせた[YbFe2O4/Fe3O4]m超格子の作製にも挑戦する。 ・YbFe2O4/Fe3O4多層膜の精密構造解析: Fe3O4とYbFe2O4の面内配向関係がYbFe2O4の物性に大きく影響することを本年度、見出した。そこで、作製したYbFe2O4層の結晶構造をX線回折法により精密化し、構造シミュレーションを行うとともに、YbFe2O4層の上下に誘起される格子歪等を系統的に評価、解析する。さらに、薄膜断面の微細構造を高分解能STEM観察し、積層界面の構造を原子レベルで評価することで、Fe3O4/YbFe2O4の界面構造と磁気特性との関係を探る。 ・YbFe2O4/Fe3O4多層膜の物性解析: SQUID磁化測定およびメスバウアー分光測定の結果、Fe3O4層からの交換結合がYbFe2O4の磁性(磁気転移温度、飽和磁化、磁気異方性等)や電子状態に影響を与えている可能性が示唆された。よって、多層膜の磁気特性や電子状態をより詳細に分析、評価することで、多層化が真にYbFe2O4層の物性に影響しているか確認することを試みる。くわえて、直流I-V特性、交流インピーダンス測定、誘電分極測定、及び赤外反射率測定などから薄膜の電気的特性や光学的特性を評価し、それらの温度依存性を測定することで、YbFe2O4/Fe3O4多層膜のマルチフェロイック物性についての知見を得る。
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