研究課題/領域番号 |
18H02061
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
磯部 徹彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30212971)
|
研究分担者 |
磯 由樹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00769705)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 量子ドット / 波長変換 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
量子ドット(QDs)の合成方法を見直して蛍光量子収率(PLQY)を向上させるとともに、QDsを分散させたエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)膜を作製して単結晶シリコン太陽電池の特性に与える影響を評価した。1-ドデカンチオール(DDT)、1-オクタデセン(ODE)およびオレイン酸(OA)にCuIとIn(CH3COO)3を加え、Arガス雰囲気下で150 ℃に昇温した。そこに硫黄粉末のオレイルアミン溶液をインジェクションして加熱した。その後DDT、ODEおよびOAにZn(CH3COO)2・2H2Oを溶解させたシェル剤を滴下して250 ℃で熟成し、さらに同様のシェル剤を滴下して250 ℃で熟成した。洗浄したQDsをトルエンに分散させ、評価した結果、バンドギャップ(Eg)は2.92 eV、PLQYは60%であることが明らかにされた。つぎに、EVAをトルエンとODEの混合溶媒に溶解させ、QDsを添加した。撹拌してQDsを分散させた後、乾燥して波長変換膜(QDs@EVA)膜を作製した。QD濃度が0.20 wt%および0.63 wt%のQDs@EVA膜は見た目に透明であったが、さらにQD濃度を増大させると半透明になった。これは膜中でQDsが凝集し、光散乱強度が増大したことに起因すると考えられる。また、膜中のQD濃度を0 wt%から6.2 wt%まで増大させると蛍光強度は単調に増大した。QDs@EVA膜を市販の単結晶シリコン太陽電池モジュールに直接密着させて波長ごとの光電変換効率(IPCE)を測定した。膜中のQD濃度を増大させると370 nm以下の近紫外域におけるIPCEが増大した。これはQDsが近紫外光を可視光に波長変換したことによる光電流の増大を示唆する。しかし、QDs@EVA膜のQD濃度が高いほど可視域のIPCEが低下した。これは光散乱損失の増大に起因すると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QDsの合成方法を見直し、CuとInの前駆体溶液へSの前駆体溶液をホットインジェクションしてQDsを合成した結果、目的とするEgに近い2.92 eVが得られ、さらにQDsのPLQYを昨年度の30%から60%へ倍増できた。また、QDsを分散したEVA膜を単結晶シリコン太陽電池へ密着させて特性評価をした結果、紫外光を可視光へ変化するQDsの波長変換効果によって、近紫外域の光電変換効率を増大させることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
紫外光を可視光に変換するコア/シェル型QDsの材料系として、CuInS2/ZnSのほかに、CuGaS2/ZnSについて検討を行う。CuGaS2/ZnS量子ドットの基本となる合成の手順は次の通りである。Arガスバブリングを行ったDDTとオレイルアミンの混合溶液にCuIとGaI3を加え、120 ℃で真空引きを行った後、系内にArガスを導入する。その系内に、硫黄粉末をODEに190 ℃で溶解させArガスバブリングを行った溶液を180 ℃のもとですばやく滴下し、190 ℃で反応させる。そこにZn(CH3COO)2・2H2OをDDT、ODEおよびOAの混合溶媒に190 ℃で溶解し、Arガスバブリングしたシェル剤を加え、220 ℃で反応させた後、再び同じシェル剤を加え250 ℃で熟成することでシェル被覆を行う。その後洗浄操作を行い、QDs分散液試料および乾燥試料を得る。つぎに、EVAをトルエンとODEの混合溶媒に溶解させた溶液にQDsを分散させ、乾燥させることでQDsがEVA中に分散したQDs@EVA複合膜を作製する。さらに、EVA膜上にQDsを堆積したQDs/EVA複合膜を作製する。必要に応じて、上記のQDs合成方法の改善や配位子交換を検討する。紫外光を十分に吸収するように、QDs濃度や膜厚などを調節する。続いて複合膜の蛍光特性(蛍光・励起スペクトル、蛍光量子収率、蛍光寿命など)を評価する。つぎに、得られた複合膜を市販の太陽電池の上部に密着して太陽電池特性を評価する。疑似太陽光下でのI-V特性を測定し、開放電圧、短絡電流、最大出力、曲線因子、光電変換効率を求める。分光感度測定システムを用いて、QDsの波長変換効果による近紫外域での分光感度の向上を評価する。
|