これまでのCuInS2(CIS)/ZnS量子ドット(QDs)の検討では、QDsのバンドギャップ(Eg)の調節と絶対蛍光量子収率(PLQY)の向上を両立させることが課題であった。本研究では、CIS/ZnS QDsよりもさらなる特性の向上を期待してCuGaS2(CGS)/ZnS QDsを用いた波長変換膜を作製し、単結晶シリコン(c-Si)太陽電池モジュールの特性に与える影響を評価した。CGS/ZnS QDsはCIS/ZnS QDsと同様のホットインジェクション法によって合成した。また、EVAをトルエンに溶解させた溶液にQDsを分散させた後、一晩乾燥させることでQDs分散EVA(QDs@EVA)膜を得た。QDs分散液を評価した結果、Egは3.00 eV、絶対PLQYは64%であった。QDs@EVA膜は、白色光下では、QDs濃度の増大に伴い膜が見た目に白濁した。これは膜中のQDsが凝集したことによる光散乱強度の増大に起因する。また、365 nmのUVランプ照射下では蛍光強度が増大した。QDs@EVA膜の蛍光スペクトルにはブロードな蛍光ピークが584 nmに観測された。これはCu+サイトに置換されたZn2+やGa3+のカチオン交換欠陥準位とCu+の空孔の準位との間の放射再結合に帰属される。蛍光強度はQDs濃度の増大に伴い増大した。QDs@EVA膜を密着したc-Si太陽電池モジュールの波長ごとの光電変換効率 (IPCE)を測定した。膜のQDs濃度の増大に伴い紫外域でのIPCEが向上した。QDs濃度が高いほど、近紫外光が多く可視光に変換されたことで、光電流が増大したと考えられる。一方、可視域でのIPCEについてはQDs濃度が高いほど低下した。これは、高濃度ほどQDsの凝集が進行し、光散乱損失が増大したためと考えられる。
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