研究課題/領域番号 |
18H02068
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
吉田 司 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (90273127)
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研究分担者 |
Ajit Khosla 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (00768484)
城石 英伸 東京工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30413751)
Milano Giuseppe 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (30816608)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エネルギー変換 / 電極触媒 / 導電性高分子 / 電気化学分析 / 分子ダイナミクスシミュレーション / 3Dプリンティング |
研究実績の概要 |
熱酸化CVD法によるポリドーパミン(PDA)の製膜を良く再現できる様になったことを受け、種々の導電性高分子の製膜と触媒機能評価を進めた。また、より制御性の高い製膜法として、電解重合法による製膜にも取組み、その機能を比較した。連携パートナーのリンツ大グループがポリグアニンに高い水素発生触媒能があることを見出したことから、他の核酸類(アデニン、チミン)を検討した。ポリアデニンの形成はIR測定等から確認されたが、アミノ基を有さないチミンは重合しなかった。しかし、ポリアデニンの触媒能はポリグアニンに著しく劣ることが分かり、水素結合反応場に関する興味深い情報が得られた。一方水素結合性アミノ基を多量有し、アニリンに類似したニュートラルレッドはCVD法、電解法とも膜が得られ、高いCO2還元触媒活性を示すことが明らかとなった。CVD法による試料が電解法のおよそ2倍の活性を示すことから、構造的乱雑さが高活性の要因であり、電解法によって高活性触媒を得ることは困難かと思われた。しかし、年度末にコロナウイルス感染拡大のために緊急帰国するまでの1.5カ月リンツ大で共同実施した実験において、非水溶液からの電解重合によるPDAがCVDによるPDA試料を大きく凌駕する触媒能を持つことが明らかとなった。ヘキサフルオロフォスファートをドーパントとし、ポテンシャルサイクルによる電解酸化重合において、電位掃引範囲を貴側に設定するほど触媒活性が向上し、最高性能貴金属触媒に匹敵する過電圧100mVで10mAcm-2を達成した。メタルフリー有機触媒であっても、世界最高レベルの触媒活性を見出し得ることに確信を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電解重合法によるPDAが世界最高レベルの水素発生触媒活性を持つことを研究中盤で確認出来たことは、当初の予想を大きく超える成果であり、本研究が最終的に目指す有機電極触媒の領域を開拓するという目標については、その達成を既に確信できる段階に至ったと考えている。また、DNAを模倣するポリヌクレオシドがCVD法によって合成可能であり、それらが導電性を持ち、水素結合性であることからCO2還元や水素発生の触媒となることが見出されたのも、大変興味深い成果であり、生体模倣型材料という位置づけからも学術的探究を開始したところである。さらには、導電性の高いポリアニリンが全く触媒能を持たない一方で、水素結合に寄与するアミノ基を高密度に含有するポリニュートラルレッドは高い触媒能を持つことも分かり、当初の想定通り導電性と水素結合性のバランスが重要であることが確認され、今後その微構造と触媒能の関係を調べる環境が整った。また、水酸化系に用いる遷移金属ドープ酸化亜鉛触媒では、微量のコバルト添加によって中性電解液中でも高い触媒活性が得られることが見出された一方、微粒子の塗布によって作製した膜が発生した気泡で剥離する問題に直面した。その解決策の案として、別途ガスバリア膜の開発を目的とした学内共同研究において、真空UV(VUV)光照射による有機金属プレカーサの光分解を利用した室温ゾルゲル法により、極めて緻密で平滑な金属酸化物薄膜を得ることに成功したことから、それを遷移金属ドープ酸化亜鉛触媒の製膜法として検討する見通しも得た。 一方で、MDシミュレーションによる評価はPDAの構造を良く説明するものの、CO2や水分子との反応機構を説明する段階には発展していない。また、気泡の脱離を容易にする立体規則多孔質電極を安価な材料から得ることにも成功出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
導電性高分子触媒の研究については、2つの方向性でこれを展開する。一つは更なる高性能化を果たすと同時にその安定性を検証する課題であり、前年度に見出された複数の候補についての最適化、さらにはそのコポリマー化にも取り組むことでこれを果たす。同時にプロダクトの分析も重要であり、特にCO2還元については得られる生成物種類とそのファラデー効率を明らかにする必要がある。もう一つの方向性は、機能向上と微構造の関係解明であり、アニリンの誘導体を候補として比較検証する。実験的に得られた触媒活性の相違とシミュレーションを対比することで、どの様な水素結合サイトがCO2や水分子の反応中間体の安定化に寄与し、触媒作用を持つのかを明らかにしたい。 水電解に必須となる酸素発生触媒については、それ自体が酸化されて炭酸ガスとなってしまうため、有機触媒を用いることは困難である。安価で低毒性の無機触媒として、酸化亜鉛をベースとした触媒の開発をさらに発展させる。微量のコバルト添加に加え、他の遷移金属、さらにそれらの組合せにより、触媒活性と安定性の向上を果たす。特に安定性については化学的安定性というより、物理的安定性が壁となっており、新規に見出されたVUV光ゾルゲル法によって得られる高密着で緻密なアモルファス金属酸化物に期待している。 最終的に上記触媒を組合せ、3D印刷法によって作製したフロー電解装置を用い、12 hの電解で水素1 Lの生成に相当する0.2 A以上での高速エネルギー変換を実証する。光源を太陽、電源を太陽電池としたフィールドテストにより、クリーン電力の貯蔵可能な化学燃料への変換貯蔵のコンセプトを安価で再生可能な有機触媒によって実証し、学問基礎の構築と同時に今後のエネルギー開発に対して一石を投じることが最終目標となる。
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