研究課題/領域番号 |
18H02069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 卓巳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60635168)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機金属ハライドペロブスカイ / 多励起子生成 / エネルギー移動 / 光エネルギー変換 / 再生可能エネルギー |
研究実績の概要 |
本研究では従来の単一光子から単一電子正孔対を生成する原理によらず、多励起子生成などの新たな機構を駆使することによってこれまで成し得なかった高効率エネルギー変換と低コスト化を両立することが出来る次世代の太陽電池の実現を目指す。金属ハライドペロブスカイトが示す光励起によって生じるエキシトンの特異的性質を活かし、1光子から多電子-正孔対を生成する金属ハライドペロブスカイトの新素材の開発と、従来の化合物半導体をベースとした多接合太陽電池では困難であった塗布プロセスによる低コスト化に繋がるデバイス構築に向けて研究を行う。今年度は主にI.X線構造解析によるイオンドーピングによる結晶構造変化、及びII.分光学的解析による励起子生成過程の解析について詳細な実験を行った。 I.では各種前駆体溶液から作製されたペロブスカイト薄膜についてX線構造解析を行い、イオンドーピングによる結晶構造の変化について解析したところ、ドーパント量が母結晶の構造に与える影響について明らかにする事が出来た。またII.についてはペロブスカイト材料からドープしたイオン種へのエネルギー移動の発現機構について時間分解測定や絶対発光量子収率測定などの各種分光法による解析を行った。蛍光量子収率及び過渡吸収分光測定などの各種時間分解分光を用いてエネルギー移動効率を見積もったところ、ドーパントへのエネルギー移動が非常に速く、条件によっては励起子生成効率が100%以上に達すると見積もられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、ペロブスカイトにおける多励起子生成系の実現のため、今年度は主にI.X線構造解析によるイオンドーピングによる結晶構造変化、及びII.分光学的解析による励起子生成過程の解析について詳細な実験を行った。X線構造解析からは、イオンドーピングにより、ある一定量以上のドーパントに対しては母結晶のペロブスカイトが立方晶を維持できなくなり、特異的な構造変化を起こす事を明らかにすることが出来た。また時間分解分光によるドーパントへのエネルギー移動について解析したところ、エネルギー移動速度について高速時間分解測定を駆使することによってダイナミクスを明らかにすることができた。過渡吸収分光測定を用いてエネルギー移動効率を調べたところ、通常のペロブスカイト薄膜での励起子の緩和時間に対し、イオンドーピングを施した薄膜ではドーパントへのエネルギー移動が非常に速いことが確認された。一部では予定よりも早く進められた実験もあったが、当初の予想に反し、バンドギャップが大きな結晶で発光挙動が異なることを見出した。それらを解析するために当初の計画を半年延長して、研究を行ったところ、バンドギャップの大きな材料で非常に高い効率でのエネルギー移動系を構築する事ができる事を明らかにすることができ、当初の予想以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目標である、1光子から多電子-正孔対を生成する新素材の開発については、結晶構造解析や分光学的解析により当初計画で予想された以上の成果が得られている。今後は、励起子生成量を時間分解分光及び発光量子収率から見積もり、具体的な多励起子の生成効率の測定を行う。またドーパントやカチオン種の系統的な変更により、多励起子生成へ与える影響について分光学的な観点から測定を行う予定である。
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