Mn酸化物を用いた酸素発生触媒の開発においては、反応中間体であるMn3+の電子状態の制御が不可欠である。特に、酸性や中性pHにおいては、Mn3+のMn2+とMn4+へ不均化反応が進行し、活性が大きく低下する。また、不均化が進行することで、触媒からMnイオンの溶出が進み、安定性が大きく低下する。今年度は、Mn3+の不均化反応を抑制する手法として、不均化反応がヤーンテラー歪みと競合することに着目し、Mn酸化物に構造歪みを導入することでeg軌道の縮退を解き、活性ならびに安定性の向上を目指した。
Mn酸化物に構造歪みを導入する手法として、数あるマンガン酸化物結晶相の中でも、構造歪みの精密制御が可能であり、Microtwinning構造を有するガンマ型MnO2を主要な触媒材料として検討を進めてきた。ガンマ型MnO2を電極触媒として用い、酸素発生反応中のMn3+の生成を、紫外可視吸収分光ならびに顕微ラマン分光法を用い追跡した。その結果、ガンマ型MnO2においては、Mn3+の生成が低電位領域から進行し、Mn3+の不均化が抑制されることが確認した。また、適切な電位を印加することで、pH2の強酸環境においても、MnO2触媒が溶出分解することなく、1年以上に渡り安定して水を電気分解出来ることを突き止めた。一方で、構造歪を持たないアルファ型酸化マンガンを用いた場合には、Mn3+の不均化が進行し、触媒がすぐに劣化することをこれまでの検討において確認している。すなわち、本結果は、構造歪みの導入により不均化が抑制できること、そして、その結果、活性のみならず安定性も飛躍的に向上できることを示している。
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