研究実績の概要 |
当研究室では、アンチリジン骨格キレート配位子Lを有する二核ルテニウム錯体(proximal,proximal-[Ru2(tpy)2L(OH)(OH2)]3+ (RuII2(OH)(OH2), tpy = 2,2’;6’,2”-terpyridine and L = 5-phenyl-2,8-bis(2-pyridyl)-1,9,10-anthyridine)を合成した。この錯体は隣接するOH2とOH-配位子に由来するオキソ間の分子内カップリングO-O結合形成を介して酸素発生することが報告されている。金属オキシルラジカルM(n-1)+-O・(Mn+=O) の分子内カップリングによるO-O結合形成機構では、高い酸化状態のMn+=O (e.g. Ru4+ or 5+=O)は必ずしも必要とされないにもかかわらず、低い酸化状態でのMn+=O (e.g. Ru2+ or 3+)でのカップリングO-O結合形成は実証されていない。本研究では RuII2(OH)(OH2)の近接したOH2とOH-配位子をもつユニークなRu2核に着目して、分子内カップリングO-O結合形成に対する機構的な洞察を得るため、ペルオキソ二硫酸酸化剤によるRuII2(OH)(OH2)の水溶液中における化学的酸化を研究した。中性条件では2電子酸化種RuIII2(OH)2が生成し、 pH滴定における RuIII2(OH)2の1H NMRおよび共鳴ラマンスペクトル変化より、酸解離定数pKa = 9.7でハイドロパーオキソ架橋構造を有するRuII2(μ-OOH)が生成することを明らかにした。コア内の1つのプロトンの解離により、2つのRu3+-OHによる分子内カップリングが誘起され、O-O結合が形成されることを示した。これはRu3+中心の低酸化状態でのO-O結合形成が観察された世界初の例である。
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