研究課題/領域番号 |
18H02074
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 浩亮 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90423087)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二酸化炭素 / 合金ナノ粒子 / ギ酸 / 塩基性担体 / プラズモン |
研究実績の概要 |
本申請課題では、常温常圧でのCO2活性化を駆動する金属合金ナノ粒子触媒をモチーフとした次世代触媒開発の、斬新で画期的な方法論の提供を目的とする。目的実現のため、「触媒活性点」、「塩基性担体」、「プラズモン増強電場支援反応場」を精密設計し、それぞれの機能を相乗的に融合する「協奏的触媒」というコンセプトを掲げた。当該年度では、特に「塩基性担体」に着目し、既存触媒とは明確に異なる革新的なCO2活性化反応を実現を目指した。 具体的には、無機担体表面を多孔性金属有機構造体(MOF)で修飾した新規担体を開発した。PdAg合金ナノ粒子を担持した触媒をCO2の水素化反応によるギ酸合成反応にて評価したところ、未修飾に比べて2倍程度活性が向上した。STEMおよび元素分析の結果より、4 nm程度の粒子径を維持したまま、均一にMOF修飾していることを確認した。また、修飾を施すことで耐久性の向上にも効果が見られた。これは,反応中での合金ナノ粒子の凝集が抑制されたためである。さらにXPS測定にいて、MOF修飾によりPd3dピークが低エネルギーシフトした。DFT計算からも同様の電荷移動が確認され、Pdは電子リッチな状態で存在していると言える。以上の結果より、PdAgのみでは静電気的な反発力のため吸着種の炭素原子へ水素の攻撃ステップの活性化障壁が大きくなるのに対して、ZIF-8での修飾により本ステップが促進されると考察した。 さらにPdAg合金ナノ粒子担持親水性窒素ドープカーボンシリカ触媒が、添加物のない純水中、低温での直接CO2活性化によるギ酸合成反応に有効であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ギ酸を再生可能水素エネルギーキャリアとして利用するためには、脱水素触媒(HCOOH → H2 + CO2)の開発はもとより、逆反応であるCO2の水素化反応によるギ酸合成プロセス(CO2 + H2 → HCOOH)の構築も不可欠である。水へのCO2の溶解度が極めて低いため、既存の触媒系では有機溶媒、塩基添加物を使用する必要がある。しかしながら、これはギ酸を水素キャリアとして利用する点で大きなデメリットとなる。さらに、反応性の乏しいCO2活性化には100度以上の反応温度が必要であるが、CO2の触媒表面への吸着は熱力学的に低温で有利であるため、反応温度の上昇に伴い吸着量が減少する。本研究では、PdAg合金ナノ粒子担持親水性窒素ドープカーボンシリカ触媒が、このトレードオフの課題を克服し、添加物のない純水中、低温での直接CO2活性化によるギ酸合成反応に有効であることを見出した。本研究では、親・疎水性制御も同時に行い反応基質の活性点近傍への吸着・濃縮を促進させることにも成功した。さらに、規則的なマクロ・メソ細孔を担体に導入することでCO2ガスの拡散を容易にし、反応の高効率化も期待できる。 また、来年度以降は、本触媒とAgやAuなどのプラズモン粒子とを複合化することで、プラズモン増強電場の作用でCO2安定構造に摂動を与え活性化を支援する特殊反応場の創製を達成させる。
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今後の研究の推進方策 |
反応温度の上昇に伴い活性点近傍のCO2濃度が減少するという、吸熱反応には致命的な課題を克服すべく、光照射下でAgやAuナノ粒子近傍に誘起されたプラズモン増強光電場を巧みに利用し、CO2分子に摂動を与え活性化を支援する特殊反応場を設計する。光エネルギーを用いれば常温で吸着濃縮されたCO2を、熱力学的制約に反して活性化に導くことができる。申請者はこれまでAgナノ粒子に誘起されたプラズモン増強電場によりアンモニアボラン(NH3BH3)やギ酸(HCOOH)分子に摂動を与え、それら分解反応が飛躍的に促進されることを見出している。ここでは、プラズモン材料の粒子径、形状制御、新規探索により安定なCO2分子への適用を試みる。本発想は光エネルギーで反応を駆動する光触媒とは全く異なり、同種の研究はなく、世界に先駆けた独創性の高い試みである。本研究ではこの新しい触媒設計思想の妥当性を見極める。 次世代触媒の開発には、活性金属種の精密制御、反応場の構築はもとより、複数機能の融合による新領域の形成によるブレークスルーが不可欠である。そこで、①により得られた知見を一つに融合した協奏的触媒を創出する。一般的に、複数の機能を集積することで個々の機能が低下してしまう場合があるが、本課題では、①で得られた知見を微調整しつつ、それぞれの機能を最大限発揮し相乗効果の発現を狙う。具体的な数値目標は、既存触媒の一桁向上である。
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